理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-03
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一般口述発表
日本版膝関節症機能評価尺度を用いた両側同時TKA患者のQOL評価
術前から術後1年までの経時的変化と関連因子の検討
神田 泰明松井 克明中曽祢 博史井上 菜摘堀内 博志秋月 章
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キーワード: TKA, QOL, JKOM
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抄録

【はじめに、目的】 近年、人工膝関節全置換術(TKA)の臨床成績は、生活の質(QOL)に関して患者の視点で評価する患者立脚型評価が重要視されてきている。日本版膝関節症機能評価尺度(Japanese Knee Osteoarthritis Measure:JKOM)は変形性膝関節症のためにつくられた患者立脚型QOL評価法であるが、本邦でTKAの臨床成績にJKOMを用いた報告はまだ少なく、患者評価によるTKAの臨床成績、QOLおよびその関連因子は明らかではない。今回、両側同時TKA患者を対象にJKOMの経時的評価と関連因子について調査したので報告する。【方法】 対象は2010年5月から2011年7月に当院で両側変形性膝関節症により両側同時TKAを施行した全55例中、追跡できた48例(男性7例、女性41例、平均年齢76.0±6.3歳)とした。JKOMは「膝の痛みやこわばり」、「日常生活の状態」、「普段の活動」、「健康状態」の4項目、全25問で構成される自記式質問表で、合計点(25~125点)をJKOMスコアとし、重症なほど高得点となる。 JKOMの評価時期は術前、術後3ヶ月、術後6ヶ月、術後1年とした。また、患者因子として性別、年齢、 BMI、膝機能としてVAS、 膝伸展筋力、膝伸展可動域、膝屈曲可動域、歩行能力として10m歩行時間、臨床スコアとしてKnee Society Score(Knee ScoreおよびFunction Score)を調査した。検討項目はJKOMスコアの経時的変化、JKOM項目別スコアの経時的変化、JKOMスコアと各因子との関連とした。統計学的処理はMann-WhitneyのU検定、Tukey-Kramer法、ピアソンの相関係数を用い危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に対して十分に研究の目的を説明し同意を得た。【結果】 JKOMスコアおよびJKOM項目別スコアを術前→術後3ヶ月→術後6ヶ月→術後1年の順で示す。JKOMスコアは73.6±20.3点→52.0±14.6点→43.2±9.1点→39.1±10.0点となり、術前から術後3ヶ月、術後3ヶ月から術後6ヶ月で有意に改善を認めた。JKOM項目別スコアは、「膝の痛みやこわばり」は25.1±6.8点→16.2±5.0点→14.0±4.0点→12.2±3.8点、「日常生活の状態」は28.2±7.7点→20.0±6.0点→17.1±3.8点→16.1±4.7点、「普段の活動」は14.7±5.2点→11.9±5.6点→8.4±2.8点→7.3±2.7点、「健康状態」は5.6±2.6点→3.9±1.4点→3.8±1.1点→3.5±1.1点となった。「膝の痛みやこわばり」、「日常生活の状態」、「健康状態」は術前から術後3ヶ月で有意に改善を認め、「普段の活動」は術前から術後3ヶ月、術後3ヶ月から術後6ヶ月で有意に改善を認めた。JKOMスコアと各因子との関連は、各時期で男女間での有意差は認めず、術前ではVAS(r=0.35)、膝伸展筋力(r=-0.38)、10m歩行時間(r=0.61)、Function Score(r=-0.40)、術後では各時期ともにVAS(r=0.47~0.50)、膝伸展筋力(r=-0.34~-0.58)、膝屈曲可動域(r=-0.23~-0.29)と有意な相関を認めた。【考察】 両側同時TKA患者の QOLは術後6ヶ月程度まで経時的に向上し、その後は維持されることが確認できた。JKOM項目別スコアでは「膝の痛みやこわばり」、「日常生活の状態」、「健康状態」は術前から術後3ヶ月で特に改善がみられ、術後早期は主に除痛、ADLの改善、健康感の改善によりQOLが向上すると考えられた。一方、「普段の活動」は術後3ヶ月から術後6ヶ月で特に改善がみられ、術後3ヶ月以降は主に活動量の増加や活動範囲の拡大によりQOLが向上すると考えられた。また、JKOMスコアと相関を認めた因子より、TKA後のQOL向上においては疼痛、膝伸展筋力、膝屈曲可動域の改善が特に重要であることが示唆された。一方、術後のJKOMスコアと臨床スコアとは相関を認めなかったことより、TKA患者の全体像を捉えるには患者立脚型評価を用いて患者の視点からの問題点やNeedsを把握することも重要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 両側同時TKA患者のQOLに関して術前から術後1年までの指標を得ることができた。患者の術後経過に対する不安の軽減など心理面でのサポートにもつながると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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