理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-04
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一般口述発表
人工膝関節全置術前後での日本版膝関節症機能評価尺度(JKOM)の分析
中西 純菜森口 晃一田中 彩藤戸 郁久河上 淳一曽川 紗帆原口 和史
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キーワード: 人工膝関節全置換術, JKOM, QOL
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抄録

【はじめに】人工膝関節全置換術(以下,TKA)後の臨床評価として,従来から行われている膝関節可動域(以下,ROM)や歩行速度,日本整形外科学会OA膝疾患治療成績判定基準(JOAスコア)といった評価に加えて,近年ではロコモティブシンドロームの概念の広がりにより,身体機能評価としてTime Up and Go Test(以下,TUG-T)や片脚起立時間などが用いられ,またSF‐36や日本版膝関節症機能評価尺度(Japanese Knee Osteoarthritis Measure 以下,JKOM)などを用いたQOLの評価も行われるようになるなど,アウトカムの設定が多様化してきた.過去の報告において,ROMや下肢筋力,歩行速度などの要因とJKOMの合計点数との関連を調査したものは散見されるが,JKOM のみで項目ごとに詳細な検討された報告は少ない.そこで今回,TKA施行前後でのJKOMの各項目を詳細に比較し,患者の愁訴の変化を検討することを目的とした.【方法】対象は2011年7月から2012年7月に変形性膝関節症により当院でTKAを施行した69例のうち,片側例あるいは一側TKA施行から対側TKAまでに6ヵ月以上の期間があった両側例で追跡調査可能であった症例14例(全例女性,手術時平均年齢73.8±8.65歳)とした.調査時期は術前,術後3ヵ月(以下,3ヵ月)とし,JKOMによるアンケート調査を実施した.JKOMは,A.膝の痛みの程度の他に,B.膝の痛み・こわばり,C.日常生活の状態,D.普段の活動,E.健康状態の4項目(以下,各項目をAからEで表記する)構成され,全25問の設問からなる.Aは点数には加算せず、センチメートル単位で評価した.BからEに含まれる個々の設問で,最も良い機能を0点,最も重症を4点として合計100点満点として採点した.検討項目は,術前と3ヵ月でのJKOMの合計点数,術前と3ヵ月での各項目の点数,術前・3ヵ月それぞれの時期において膝の痛みの程度と各項目との相関関係とした.統計処理は,Stat Flex ver4.1を用いて,術前と3ヵ月でのJKOMの合計点数および術前と3ヵ月での各項目の点数の比較については対応のあるt検定を,また術前・3ヵ月それぞれの時期における膝の痛みの程度と各項目との相関関係についてはSpearmanの相関係数を用い,p<0.05で統計学的有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,調査を実施した.また当院規定の倫理委員会の承認を得た.さらに対象に報告の趣旨を説明し,文書にて同意を得た.【結果】JKOMの合計点数は術前の48.6点から3ヵ月では27.6点へと有意に改善した(p<0.01).JKOMの各項目において術前と3ヵ月では,Aは6cmから2.1cmへ(p<0.01),Bは15.6点から8.4点へ(p<0.01),Cは17.7点から10.4点へ(p<0.01), Dは11.4点から6.6点(p<0.05)へ,Eは3.3点から2.4点へ(p<0.01)とそれぞれ有意に改善した.相関係数については術後3ヵ月のAとB(r=0.73,p<0.01),AとC(r=0.64,p<0.05),AとE(r=0.57,p<0.05)で正の相関を認めた.術前についてはAと各項目間に有意な相関は認められなかった.【考察】今回の調査では,TKA後3ヵ月という短期間でのJKOMによる患者の主観的な評価では,日常生活の状態,普段の活動,健康状態の全ての項目において明らかな改善が得られた.また,3ヵ月では膝の痛みの程度とJKOMの各項目に関連性が得られた.TKA後については,膝の痛みが患者のQOLに関連していることが示唆された.しかし,術前については膝の痛みの程度とJKOMの各項目との関連が低い結果であった.このことは,非常に興味深く,今回の結果から,単に膝の痛みの程度だけが患者のQOLに影響しているとは言い難いことを意味している.しかし,今回の調査ではその要因を述べるまでに至っていないため,今後調査していく必要がある.今回の調査の課題としては,今後症例数を重ねる必要があること,また長期的な検討が必要であると思われる.さらに,他の評価尺度との関連や身体機能との関連を調査していく必要性があると思われる.【理学療法学研究としての意義】今回のように,JKOMの各項目を比較・検討することによって,TKA前後の各症例の主観的な問題や改善事項の詳細な把握がしやすい.今後,長期的な調査によって,TKA後症例のより具体的な身体活動のレベルやQOLの推移の把握につながり,TKA後の理学療法の新たなアウトカムの設定につながるものと考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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