抄録
【はじめに、目的】 近年、心大血管疾患、呼吸器疾患あるいは脱調節患者などへの全身調整的、運動耐容能改善を目的とした運動療法が積極的に行われつつある。これらの患者への運動処方は、強度、運動時間、運動頻度など詳細に病態を勘案し処方されなければならない。特に運動強度の設定は、慎重に行わなければならない。一般的にはBorg指数のような自覚的運動強度、嫌気性代謝閾値(以下、AT)あるいは心拍数100拍/分から120拍/分などの運動処方手段がある。この中でATは心疾患患者などHigh Riskな対象などへも積極的に用いられる理論である。ATを基準とした運動強度はカテコラミンの著しい増加を認めず、心臓あるいは肺への負担が少ない運動強度と考えられている。しかし、ATポイントにおける運動強度での心拍反応はまだ明らかになっていない点も多い。そこで今回、electrical velocimetry法(以下、EV法)を用いて運動強度の違いによる循環応答を検討することを目的とした。【方法】 平均年齢28.9±8.5歳の健常男性10名を対象とした。身長、体重、BMIは平均でそれぞれ169.8±6.6cm、68.3±10.9kg、23.5±2.5であった。自転車エルゴメータを用いたRamp法による心肺運動負荷試験(以下、CPX)を行い、呼気ガス分析よりATを求めた。心循環反応を評価した運動負荷強度設定はAT時負荷量の80%強度(以下、80%AT)、100%強度(以下、100%AT)、120%強度(以下、120%AT)の3設定とした。運動プロトコルは0ワットでのウォーミングアップ(以下、W-up)3分を行った後に各設定の負荷量での運動を20分間測定した。実験は疲労の残存などの影響の無いように日を変えて行った。検査指標は心拍数(以下、HR)、一回拍出量(以下、SV)、心拍出量(以下、CO)とし、AESCULONmini(Am:OSYPKA MEDICAL社製)を用い安静時から連続記録し、血圧はCOLIN社製のSTBP-780Bを用い30秒ごとに測定した。資料は運動開始直後5分間および終了前5分間の平均値を代表値として採用した。統計解析ソフトはSTAT VIEW 5.0、解析手法はt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の趣旨を十分に説明し、署名にて同意を得た。【結果】HRは80%ATで98.1±14.2拍/分から103.8±17.4拍/分、100%ATで103.0±11.3拍/分から114.5±16.4拍/分、120%ATで112.9±12.8拍/分から134.4±23.5拍/分とすべて有意に上昇した。COは80%ATで9.0±1.3ml/minから9.8±1.8ml/min、100%ATで9.4±1.5ml/minから10.4±1.6ml/min、120%ATで10.0±1.3ml/minから11.4±1.8ml/minとすべて有意に上昇した。SVは80%ATで93.5±16.5mlから95.2±14.8ml、100%ATで93.6±14.9mlから91.7±12.1mlと横這いの傾向を示し、120%ATは91.5±13.4mlから86.8±13.4mlと有意な低下を示した。SBPは80%ATで128.8±11.5mmHgから133.6±13.2mmHg、100%ATで137.9±15.0mmHgから144.9±18.4mmHgと有意な上昇を示し、120%ATで141.3±16.9mmHgから148.5±20.0mmHgと上昇する傾向を示した。DBPは80%ATで63.0±11.2mmHgから61.4±10.4mmHg、100%ATで69.7±10.7mmHgから60.8±7.8mmHg、120%ATで69.8±5.9mmHgから67.5±11.7mmHgと下降する傾向を示した。【考察】 低心機能患者に対する運動療法では高い運動強度は運動中にカテコラミン等の代謝性変化が生じ、運動誘発不整脈や心事故発生予防の面から好ましくないと考えられている。今回の結果からも120%ATでSVは有意な減少を示し、反対にHRを上昇させることで運動に必要なCOを上昇させていることが示された。このことから、ATレベル以下の運動強度の安全性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 非侵襲的な方法で運動負荷中の心拍出量の変動を経時的に観察した報告は少なく、80%AT負荷量・100%AT負荷量・120%AT負荷量の3つの定量的運動負荷における循環反応の変動を検討することで、ATレベル以下の運動強度の安全性が示唆された。