抄録
【目的】近年,ES細胞やiPS細胞の発見により,再生医療への期待が大きく膨らんでいる.しかし,その臨床的応用に際しては,倫理的あるいは腫瘍化のリスクや拒絶反応など,解決すべき問題が多い. 一方,ヒト骨髄間質細胞(human bone marrow stromal cells;以下hBMSCs)は,未分化の状態から,神経細胞, 骨細胞,軟骨細胞,脂肪細胞など,様々な細胞に分化する能力があることが報告されており,しかも先に述べたような問題は少ないとされている. これまでのhBMSCsに関する報告は, 腸骨由来のhBMSCsを用いたものがほとんどであり, 頭蓋骨由来のhBMSCsに間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells ; 以下MSCs)が含まれているという報告はみられない. 頭蓋骨由来のhBMSCsは, 頭蓋骨の骨髄に存在する. また, 骨髄は, 治療目的の脳神経外科手術で行う穿頭時に並行して得ることができるため, 対象患者より容易に入手することができる. よって, 頭蓋骨由来のhBMSCsにMSCsが含まれていることを示せれば, 新たな幹細胞のソースとして有力な候補になる.我々は, これまでに頭蓋骨由来のhBMSCsが神経細胞に分化しやすいという報告をした. しかし, 骨細胞, 軟骨細胞, 脂肪細胞などの間葉系組織への分化を示した研究は過去に存在しない. 現段階では頭蓋骨由来のhBMSCsにMSCsが含まれているとはいえない. そこで本研究では,頭蓋骨由来のhBMSCsにおける多分化能を形態学的・分子細胞生物学的に解析および検討を行い, 臨床に向けた多分化能の検討を行ったので報告する.【方法】ヒトの頭蓋骨から治療目的の脳神経外科手術時に骨髄細胞を採取し,培養皿に播種した.2 日後に培地交換によって浮遊細胞を除去し,培養細胞とした.70%confluentに達した細胞は, 神経分化誘導培地に切り替え, 100%confluentに達した細胞は,骨・軟骨・脂肪分化誘導培地に切り替え,さらに培養を継続した.培地交換は3 日に1 回行い,神経分化誘導培地での培養は10 日間, 骨分化誘導培地での培養は14 日間, 軟骨・脂肪分化誘導培地での培養は21 日間行った. 分化誘導前後でサンプリングを行い,各解析を行った.培養条件は5% CO 2 ,95%air,37℃とした.解析は,組織学的解析として骨・軟骨・脂肪細胞への分化を示すためにそれぞれアリザリンレッドS染色, アルシアンブルー染色, オイルレッドO染色法を用いた. また, 位相差顕微鏡, 免疫蛍光抗体法を用いて解析を行った. さらに分子細胞生物的解析として,RT-PCR法により骨・軟骨・脂肪細胞の各種分化マーカーの発現解析を行った.【説明と同意】本研究は,細胞採取に際して,広島大学医学部の倫理審査の承認を得た.また,対象患者には,手術前に骨髄採取を行うことを十分説明し,文書による同意を得て行った.【結果】それぞれの染色法にてhBMSCsの骨・軟骨・脂肪細胞への分化が確認された. また,位相差顕微鏡下では分化誘導後に神経・骨・軟骨・脂肪細胞特有の形態が観察された. 分子細胞生物学的解析では,分化誘導後に頭蓋骨由来のhBMSCsにおいて,骨・軟骨・脂肪分化マーカーの強い発現がみられた.【考察】頭蓋骨由来のhBMSCsは,神経・骨・軟骨・脂肪細胞に分化することが形態学的・分子細胞生物学的に示された.よって頭蓋骨由来のhBMSCSにMSCsが含まれていると考えられる. 頭蓋骨由来のhBMSCsは腸骨由来のhBMSCsよりもより神経細胞に分化しやすいという報告もあり, 頭蓋骨由来のhBMSCsは神経分化に優れた幹細胞であると考えられる. 今後は,骨・軟骨・脂肪細胞への分化能を頭蓋骨と腸骨で比較・検討したい.【理学療法学研究としての意義】今回,頭蓋骨由来のhBMSCsの分化誘導を行うことで,様々な細胞へ分化することが確認できた. 本研究は,従来の動物細胞を用いた実験よりも,臨床に直結したものであり,中枢神経系理学療法の基礎としてだけでなく,臨床応用に向けた再生医療の発展にも大いに貢献するものと考えられる.