抄録
【はじめに、目的】脳卒中片麻痺患者の下肢運動機能へのアプローチに,両脚交互運動であるペダリング運動がある.ペダリング運動は,歩行に類似した筋活動や中枢神経系の賦活が可能であり,運動後に脊髄や大脳レベルでの可塑的変化が報告されている.しかしながら,両脚交互運動において,この運動制御を学習するという行動変容を示す報告はなく,学習に伴う中枢神経系の変化については検討されていない.そこで本研究では,下肢ペダリング運動による学習効果を行動実験および皮質内興奮性の変化から検討した.【方法】健常男性9 名(平均年齢25.3 ± 2.7 歳)を対象とした.ペダリング運動は,StrengthErgo240(三菱電機エンジニアリング社製)を使用し,設定はアイソトニックモード5Nmとした.行動実験は,ペダル回転速度を変動させることにより,ディスプレイ上を上下に移動するマーカーを不定周期の上下曲線に合わせるトラッキング課題とした.課題は,学習前課題,学習課題,学習後課題から構成された.学習前課題と学習後課題では,同様の曲線によるトラッキング課題を2 分間実施し,学習課題による学習の効果を評価した.学習課題では,10 分間のトラッキング課題を3 回繰り返した.学習後課題は,学習課題終了後に安静状態で30 分経過後に実施した.皮質内興奮性の評価は,二連発経頭蓋磁気刺激法を用いた.経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation:TMS)は,右下肢一次運動野に刺激し,左下肢の前脛骨筋(tibialis anterior : TA)から運動誘発電位(motor evoked potential : MEP)を誘発した.刺激条件は,試験刺激を安静時運動閾値の1.2 倍,条件刺激を微弱な随意収縮中の運動閾値の0.8 倍とした.安静時運動閾値は,50 μVのMEPが50%の確率で誘発される強度とし,収縮時運動閾値は随意筋電図を超えるMEPが50%で誘発される強度とした.条件-試験刺激間隔は,2msと13ms とし,ランダムに各10 回刺激した.評価は学習前課題の前(PRE),学習課題中の3 回の課題直後(Task1,Task2,Task3),学習後課題の後(POST)の計5 回行った.また対照条件では,学習課題内の3 課題に代えて,各10 分間の安静とし,すべての対象者で日を変えて実施した.データ解析は,トラッキングの曲線とマーカーの追跡線との誤差面積(root mean square : RMS)を算出した.皮質内興奮性の変化は,MEPの最大振幅値を算出後,試験刺激から得られるMEP振幅に対する,2msおよび13msでの振幅比を算出した.なお2msは皮質内抑制,13msを皮質内促通とした.統計解析は,ペダリング条件および対照条件それぞれで,学習前課題と学習後課題を対応のあるt検定で比較した.ペダリング群は,課題反復による学習効果を検討するため,Task1,2,3 において反復測定分散分析を用いた.皮質内抑制と皮質内促通は,それぞれで二要因反復測定分散分析(介入×時間)を行った.多重比較検定は,Bonferroni補正した対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】当院倫理審査会の承認後,全対象者に研究内容を十分に説明し,同意を得た.【結果】ペダリング条件では,学習前課題6.18 ± 2.19 から学習後課題4.55 ± 1.28 で,学習課題前後でRMSが有意に減少し,学習効果を認めた(p=0.016).一方,安静条件では6.02±1.65から5.65±1.15で,有意差を認めなかった(p=0.388).ペダリング条件における学習課題においては,主効果を認めた(F[2,16]=24.42,p<0.001).多重比較検定の結果,Task1 と2,2 と3,1 と3 にそれぞれ有意差を認め,ペダリング課題の繰り返しにより学習効果を認めた(p<0.05).皮質内抑制において,介入と時間の交互作用(F[4,32]=10.17,p<0.001)および介入と時間の主効果(介入:F[1,8]=34.09,p<0.001,時間:F[4,32]=14.61,p<0.001)それぞれを認めた.多重比較検定の結果,ペダリング条件で皮質内抑制は,PREと比較しすべてのTaskを含むPOSTまでに,皮質内抑制の有意な増大を認めた(p<0.05).これはペダリング運動によって,皮質内抑制の脱抑制が誘導され,その効果が30 分後まで持続したことを意味している.一方で,皮質内促通においては有意な変化を認めなかった.安静条件においても,どちらも有意な変化を認めなかった.【考察】本研究の結果から,両脚交互運動において運動学習が成立することが示された.また,ペダリング運動後に皮質内抑制は減少し,皮質内抑制の脱抑制が運動の学習に関与することが示唆された.今後,ペダリング運動が中枢神経疾患においても,同様の学習が可能であるか,さらに,下肢運動機能の再獲得に有効であるか検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】下肢運動における新しい運動学習課題を提案し,運動学習に伴う変化を行動実験,電気生理的手法により明らかにした点で意義がある.