抄録
【はじめに、目的】私達は第47回日本理学療法士学術大会でiPadによる動的評価の信頼性と,動的評価と線分抹消試験との関連性について報告した.脳卒中後の半側空間無視の残存は日常生活動作(ADL)を阻害する因子として知られており,リハビリテーションの治療対象となる.半側空間無視の評価は今まで線分試験に代表される静的な評価を利用してきたが,ADL動作の多くが動的な活動のため,今回考案したiPadによる動的検査方法が,動的な活動を評価するのに有用ではないかと考えた.今回,動的評価と半側空間無視のADL評価尺度であるCBS(Catherine Bergego Scale)との関連性について明らかにすることを目的とした.【方法】対象は脳血管障害により左片麻痺・USNを呈した右利き8名(平均年齢67.0歳;49~80歳)とした.対象の患者は,平均発症日数116.6(SD42.4:45-171)日,平均FIM74.5(SD19.8)点,平均MMSE24.1(SD7.2)点であった.今回の研究は多施設研究にて実施した.動的評価にはiPad(Apple社製)を使用した.iPadの評価アプリケーションは,左右端から5つの円(円列)が毎秒100mmの速さで画面に現れるが,円の色を青色とし,青から赤色に変化させた.円列は左右からランダムに10回モニターを横切り,どの位置でどの円の色が変更されるかはランダムとし,1施行中ランダムに2回変更した.検査者は評価対象者に「青い円が赤い円に変化したら,その円を画面上でタッチしてください」と指示した.動的評価の指標として,右または左から出た円のタッチができた右からの画面上の距離(反応距離)と,色が変化した時からタッチするまでの時間(反応時間)を算出し,計10回の値を平均した.また,半側空間無視のADL評価であるCBSを自己記入と担当セラピストによって記載した.その他,静的な机上試験として線分末梢試験を実施した.統計処理はSPSS 20.0 for Windowsを用いて,iPadの評価項目と線分試験,CBSなどの評価項目に関してspearmanの順位相関を用いて,危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】全対象者に対して,事前に本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た.本研究は首都大学東京荒川キャンパス倫理審査委員会の承認を得た.【結果】iPadによる左から円が出てタッチしたときの画面右端からの反応距離と有意な相関があった項目は,CBSのみで,正の相関(rs=0.80)を認めた.iPadによるその他の反応距離と反応時間とは有意な相関はみられなかった. また,線分抹消試験とCBSには有意な相関はみられなかった.【考察】左から出現する円に対する反応距離に関してCBSと有意な相関があり,その他の項目と線分抹消試験と有意な相関はみられなかった.無視側である左から出現し、変化する円に対する反応が、CBSの高得点である対象者ほど良好であったことを示す.しかし,線分抹消試験とCBSの間では有意な相関はなかった.このことは,半側空間無視の日常動作の評価を実施するときに,静的な評価よりも動的な評価のほうにおいて関連性が強いことが示唆された.動的な評価に関しては今まで車椅子による駆動試験などもみられるが、大きな運動を伴わず動きに対する反応に関して有効に評価できる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】半側空間無視は理学療法においても治療に苦慮する病態である.ADL場面で患者は左半側を無視してしまい、大きな活動の制限を生じる.しかし,現行までは静止紙面上の評価で,動的な動きに対する評価は散見する程度であった.日常生活では動きを伴うことから,動的評価が静的評価よりも関連性が強かったことは,動的評価が半側空間無視の評価に有用ではないかと考えられる.しかし,十分な症例数で検討ができなかったので,症例数を増やして検討していく必要がある.また,他の検査項目との関連性についても検討は必要である.半側空間無視は多彩な病態を示すため,多くの検査指標を実施してその病態を明らかにしていく必要があるが,今回の動的評価は動きを伴う場面での半側空間無視の評価につながり、理学療法の効果判定などにも意義があると考えられる.