理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-14
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一般口述発表
脳性麻痺両麻痺児のカーボン製短下肢装具装着時の歩行効率の変化
松田 雅弘高橋 彰子花井 丈夫山田 里美入岡 直美杉山 亮子長谷川 大和新井 麻衣子加藤 貴子福原 一郎高木 伸輔井手 麻衣子新田 收楠本 泰士根津 敦夫
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抄録

【はじめに、目的】脳性麻痺痙直型両麻痺児(両麻痺児)は下肢の筋緊張の亢進によって尖足になりやすく,金属支柱付AFOが処方されることが多い.装具着用よる歩容の変化は,尖足抑制や,足部が接地しやすくなるための安定性改善であるが,歩容が重量などの影響で悪化することもある.近年,支柱が金属に換わって軽量なカーボンファイバーで作成されたAFO(商品名 Walk On)で,軽度麻痺例で歩行能力が改善と活動度を拡大することが脳卒中患者で報告されている.カーボン素材のために軽量で,動きに対して機能的な制限と弾性を与え,今までの硬性な装具ではみられない歩行能力の改善傾向を臨床上経験する.今回,歩行の効率を示すPCI(Physical cost index)の指標を用いて,カーボン製短下肢装具の効果を検討することを目的とした.【方法】対象は介助なしで歩行可能な両麻痺児7名(男児3名,女児4名)とし,平均年齢10.6(8~16)歳,平均身長133.54(SD12.41)cm,平均体重29.14(SD6.99)kg,GMFCSレベルI:4名,レベルⅡ:2名,レベルⅢ:1名とした.足関節の痙性はMAS(modified Ashworth scale)で平均1.86,足関節背屈の膝伸展位では9(SD2.24)°,膝屈曲位では16.67(SD8.76)であった.歩行は同一被験者に裸足歩行とカーボン製短下肢装具(装具歩行)をランダムの順番で,10m歩行テストとPCIの2種類を各々2回ランダムに実施した.病棟内に歩行助走路3m,その後10m,最後に歩行終了まで3mと計16mの歩行路を作成し,ストップウォッチにて快適歩行10m歩行時の時間と歩数を記録し,その後歩行速度,歩行率,歩幅を算出した.またPCIは安静時心拍数を計測後,10m歩行路を3分間快適歩行速度で歩行を行い,歩行距離と時間を算出し,歩行後に心拍数を測定しPCIを求めた.統計処理はSPSS ver20.0を用いて裸足時と装具歩行に関連する因子についてWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した.危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】全対象者と全対象者の親に対して,事前に本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た.医師の安全管理下のもと実施した.【結果】10m歩行計測を実施した結果,歩行速度で裸足歩行53.32(SD15.45)m/minと装具歩行60.23(SD15.25)m/minと,歩幅で裸足歩行45.57(SD9.62) cmと装具歩行51.95(SD7.88) cmで有意差があり,装具歩行において歩行速度と歩幅の増大がみられた.しかし,歩行率に有意な差はみられなかった.PCIで裸足歩行0.43(SD0.25)beats/m,装具歩行0.33(SD0.29)beats/mとなり有意差がみられた.PCI測定時の3分間の歩行距離においても裸足歩行145.71(SD43.53)m,装具歩行161.43(SD50.14)mで有意に歩行距離が増大した.【考察】今回の計測結果よりPCI,歩行速度,歩幅に有意な差がみられた.過去の報告でPCIは再現性に優れ,両麻痺児における計測でも妥当性があり,酸素摂取量と心拍数に関連がある.そのため今回PCIの有意な低下によって歩行に関してエネルギー効率がよく長距離歩行が可能となって,歩行効率が向上する.また,歩行速度と歩幅の有意な増大から,装具によって下肢の蹴りだしや下肢の支持性が向上し,歩幅の増大へつながったものと考えられる.また,歩行能力の改善は歩行速度の向上からも考えられ,カーボン製短下肢装具のメリットである軽量,底背屈制動,弾性エネルギーの利用により歩行能力の改善と歩行効率の改善につながったものと考えられる.今回は歩行動作分析など実施しておらず,歩行効率の変化に対して主眼をおいたが,今後は動作の変化との関連性についても研究を継続していきたい.【理学療法学研究としての意義】今までの金属支柱付AFO以外にも,多くの下肢装具が開発されているが,両麻痺児に処方される装具としては,麻痺の程度に関わらず,未だに金属支柱付AFOを処方されることが多い.今回,麻痺の程度が比較的軽度で歩行可能な両麻痺児に対してカーボン製短下肢装具の歩行効率の変化について検討した結果,歩行速度と歩行効率は向上した.これは今後,下肢の麻痺の状態を把握したうえで,カーボン製短下肢装具の適応への一助になると考えられる.しかし,金属支柱付AFOとの比較や,詳細な動作分析を行っていないので,今後さらに研究を進めてカーボン製短下肢装具の適応や歩容の変化を詳細に検討していきたい.

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© 2013 日本理学療法士協会
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