抄録
【はじめに、目的】回復期脳卒中患者における早期の歩行自立には、安定した歩行が求められる。我々は、回復期脳卒中患者に対する短下肢装具(以下、装具)が、歩行安定性を改善するとともに、歩行速度など時間距離因子を向上させることを報告した(小宅、2012)。しかしながら、装具着用による歩行安定性の改善と関連する因子についての検討はなされていない。どのような特性を有した患者が、装具着用によって歩行安定性が改善しやすいのかを見出すことができれば、装具作製の際に有用な知見となる。本研究の目的は、装具着用による歩行安定性の改善と関連する因子について、身体機能および装具無しでの歩行変数から明らかにすることである。【方法】対象は、2011年9月から2012年8月の間に当院の回復期病棟に入院し、装具の無い状態で10m以上の歩行が可能な回復期脳卒中患者26名とした。年齢は63±12歳(平均値±標準偏差)、診断名は脳梗塞15名/脳出血11名、麻痺側は右9名/左17名であった。発症からの期間は99±38日であった。歩行能力の評価は、至適速度での10m歩行とし、装具の有り無し2条件を実施した。装具は対象者が所有している装具を使用した。測定順は対象者ごとにランダムとし、両条件とも各2回ずつ測定した。得られたデータから、歩行変数として歩行速度、歩行率、重複歩距離、歩行比を算出した。歩行変数は両条件とも2回測定した平均値を解析に用いた。また歩行安定性の指標としては、10m歩行における歩行周期時間の変動係数を用いた。歩行周期時間は、対象者の第三腰椎棘突起部に固定した加速度計(ワイヤレステクノロジー社)で特定し、定常歩行10周期の変動係数を算出した。身体機能は運動機能、感覚機能、筋緊張、下肢筋力を評価した。運動機能はStroke Impairment Assessment Set(SIAS)の下肢項目で評価した。股関節、膝関節、足関節の合計点(0~15 点)を解析に用いた。感覚機能の評価もSIASを用い、表在覚と深部覚をそれぞれ0~3 点で採点した。筋緊張の評価はmodified Ashworth scale (MAS)を用いて麻痺側ヒラメ筋を検査した。MASの点数は、1+を2に置き換え0~5 点で採点した。下肢筋力の評価はStrength Ergo 240(三菱電機エンジニアリング株式会社)を用いて、ペダリング運動中の麻痺側および非麻痺側下肢筋力を測定した。計測モードは等速性運動(20rpm)とし、5回転中の最大トルク値を算出後、体重で除した値を解析に用いた。統計解析は、装具着用による歩行安定性の改善率(装具有り/装具無し)を従属変数とし、関連する因子を独立変数としてstepwise重回帰分析を行った。独立変数として、上記の身体機能と装具無しでの歩行変数を投入した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院倫理委員会の承認後に実施した。また研究の参加にあたって、対象者には研究内容を十分に説明し、同意を得た。【結果】装具着用によって歩行速度は0.27±0.14 m/sから0.40±0.22 m/sへ増加した。また歩行安定性は7.78±3.82%から5.01±1.41%へ減少し、安定性が改善した。歩行安定性の改善率は、0.75±0.28 であった。重回帰分析の結果、歩行安定性の改善率に有意に関連する因子として抽出された独立変数は、装具無しでの歩行安定性(β=-1.05、p<0.01)と歩行速度(β=-0.58、p<0.01)、および麻痺側下肢筋力(β=0.35、p<0.05)であった。自由度調整済み決定係数は0.75であった。【考察】先行研究と同様に、装具着用で歩行速度が向上するだけでなく、歩行安定性も改善した。装具着用による歩行安定性の改善に最も強く関連する因子は、装具無しでの歩行安定性であった。すなわち、装具無しでの歩行が不安定な対象者ほど、装具着用による改善効果が高いことが示された。また対象者間で装具無しでの歩行安定性が同等ならば、装具無しでの歩行速度が速く、且つ、麻痺側下肢筋力が低いほど、装具の着用で歩行安定性が改善しやすいことが示された。重回帰分析で抽出されたこれらの変数は、歩行を安定させるために装具療法の必要性が高い対象者を選別する上で重要な評価であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の知見は、装具療法の適用を判断する根拠を示した点で理学療法学研究として意義がある。