抄録
【はじめに、目的】 変形性膝関節症(膝OA)は、内反変形に伴う内側型膝OAが圧倒的に多く、術前の大腿脛骨角(FTA)が180度以上の術後の報告も多い。FTAの変化は術後の機能回復に影響していると考えられるが、身体機能、運動機能からの研究は未だ十分されていない。今回、我々は内側型膝OA患者の術前のFTAが術後の身体機能、運動機能の回復にどのように影響するかを検討したので報告する 【方法】 対象は平成20年1月~24年6月に当院にて人工膝関節全置換術(TKA)を行い、術前より理学療法の介入を行った内側型膝OA患者45名(平均年齢75.3±6.5歳、男性8名、女性37名)とした。使用機種は全例Fixed-bearing CRタイプとした。測定項目は術前後の膝屈曲ROM、膝伸展ROM、膝伸展筋力、膝屈曲筋力、股外転筋力、TUG、FR、10m最大歩行時間、日本整形外科学会膝治療成績判定基準(JOA)とした。筋力測定は、ハンドダイナモメーター(ANIMA社製μTas F-1)を用いて、等尺性の筋力を2回ずつ測定し最高値を求めた。測定は術日前日と術後4週目とし、FTAは膝正面単純X線上で測定した。また、各測定項目の術前値を術後値で除した回復率を算出した。統計解析にはFTAの角度から188度を基準に188度以上の高度群、未満の低度群の2群に分類した。術前後の各測定項目、FTAの高度群と低度群における各測定項目をカイ二乗検定、対応のあるt検定を用いて群間比較した。統計処理はSPSS15.0を用い、全ての統計処理において有意水準5%と未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、全ての対象者に本研究の主旨および情報公開にあたり倫理的配慮をする旨を説明し同意を得た。【結果】 高度群は24名(平均年齢76.5±5.3歳)、低度群は21名(平均年齢74.0±7.5歳)であり、術前FTAは高度群191.1±3.4度、低度群184.7±1.8度、術後FTAは高度群177.5±4.7度、低度群176.0±2.6度であった。回復率(高度群/低度群)は、膝屈曲角度93.9%/92.3%、膝伸展角度58.3%/55.8%、膝伸展筋力71.6%/88.1%、膝屈曲筋力84.6%/86.6%、股外転筋力97.6%/108.8%であった。バランス能力の回復率はTUG117.4%/106.1%、FR85.5%/102.3%であった。10m最大歩行時間は108.5%/98%、JOAは97.9%/112.8%であった。術前後の比較において、下肢筋力では高度群の術後膝伸展筋力が有意に低値を示した(p<0.05)。ROMでは膝伸展角度は両群とも術前より有意に改善していた(p<0.05)。その他の下肢筋力、バランス能力、歩行能力、JOAでは有意差を認めなかった。 【考察】 これ迄の報告では20度以上の内反変形を高度内反膝としているものが多いが、今回は2群に分類する上で10度以上の188度で高低2群に分類した。諸家の報告で術後4週の下肢筋力は術前の80%まで回復するとされている。本研究においても膝屈曲筋力、低度群の膝伸展筋力の回復率は80%以上を示しており先行研究を支持する結果であった。一方、高度群の膝伸展筋力の4週間後の回復は71.6%であり、術前に比べて十分な回復を示さなかった。低度群に比べて高度群では術前に認められたアライメントの変化による変形が大きいため筋の作用方向に変化をきたし、筋長の変化に4週間では適応できなかったためと考えられた。バランス能力の項目では術前後で統計的な差は認めなかったものの高度群のTUGは十分な回復を示さなかった。これはTUGと膝伸展筋力は有意な相関があると報告されているように、膝伸展筋力の回復の影響により高度群では術前まで回復しなかったと考えている。ROMでは膝伸展角度が高度群および低度群で有意に回復した。膝関節伸展機能の病態は主に内側軟部組織の拘縮、骨棘、および骨欠損が挙げられ、手術によるアライメントの変化により伸展角度の改善が認められたと考える。一方、膝屈伸ROMの回復率ではFTAによる影響を示さなかった。本研究よりFTAが術前188度以上の内側型膝OA患者は膝伸展筋力、バランスの能力の回復が不十分であることが明らかとなり、回復を望むようなアプローチが重要となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 TKAにおける術前FTAが188度を境界とした下肢筋力、膝関節可動域、バランス能力の4週間での回復を明らかにした。術前FTAから術後の目標設定や治療効果を比較するときに有用であり、臨床での一助になると考える。