抄録
【目的】人工膝関節置換術(以下,TKA)後, 良好な屈曲可動域(以下,ROM)の獲得は術後成績を左右する一因子であり,術後早期より術中屈曲ROMを目標に積極的なROM運動を施行している報告が散見される.その際,創部治癒は重要であり膝前面の血流が大きく影響する.また,皮膚切開及び皮下剥離操作に伴う侵襲やROM運動による屈曲角度の増大は血流低下を招くとされている.我々は,第27回東海北陸理学療法学術大会にてTKA後の創部周囲の血流の客観的評価として経皮酸素分圧を用い,その経時的変化より術後早期に有意な低下を招くことから愛護的な屈曲ROM運動の必要性を提示した.今回,TKA後の経皮酸素分圧の経時的変化と屈曲角度間の変化を捉え術後早期の運動療法について検討した.【方法】対象は変形性膝関節症によりTKAを施行した18例20膝(平均年齢75.5±8.8歳)とした.全例,皮膚切開は膝蓋骨下縁レベルでの横皮切,関節展開はMedial Parapatellar法(以下,MPP法)であった.測定方法はラジオメーター社製経皮酸素分圧測定装置TCM400を使用し,術前,術後2,4,7,14日に測定した.測定肢位は,伸展位,屈曲60,90度位の3肢位を各5分間測定し平均値を求めた.測定部位は,膝蓋骨中央より近位5cmから外側4cmを近位外側,内側4cmを近位内側, 膝蓋骨中央より遠位5cmから外側4cmを遠位外側,内側4cmを遠位内側の4ヵ所とした.統計処理は,測定部位ごとに、経時的変化(術前,術後2,4,7,14日)と屈曲角度(伸展位,屈曲60,90度)を要因とする二元配置分散分析を使用し,事後検定として多重比較(Tukey法)を用い有意水準は5%未満とした.【説明と同意】対象者には主治医同伴の下,研究の趣旨を説明後,同意を得た上で測定を実施した.【結果】近位外側,近位内側,遠位外側,遠位内側ともに,経時的変化に有意差を認め(p=0.001),屈曲角度間には有意差を認めなかった.各部位別の経皮酸素分圧の経時的変化を術前,術後2,4,7,14日の順に示す.近位外側は,48.8±12.0→32.8±15.5→34.7±15.4→36.0±14.7→41.1±13.0mmHgであり,術前と比較し術後2,4,7日で有意に低下した(p<0.05).近位内側は, 54.4±11.1→36.0±13.1→37.8±15.0→40.5±16.3→43.3±14.9mmHgであり,術前と比較し術後2,4,7,14日で有意に低下した(p<0.05).遠位外側は, 43.6±14.7→26.9±12.8→29.4±12.3→34.4±10.9→33.5±12.5mmHgであり,術前と比較し術後2,4日で有意に低下した(p<0.05).遠位内側は, 45.0±11.0→26.9±12.1→25.0±11.0→32.9±10.5→31.5±10.5mmHgであり,術前と比較し術後2,4,7,14日で有意に低下した(p<0.05).また事後検定の結果,伸展位,60,90度の角度とも同様な経時的な変化を示し,角度による違いは認められなかった.【考察】各部位の経時的変化は術後2,4日で最も低い傾向にあった. その理由として,皮膚への手術侵襲により微小動脈網が損傷され,その後の治癒過程において術後4~5日後より血管新生が起こることから,術後4日間は低下すると考えられる.また,内側では術後14日に至っても経皮酸素分圧が低下していた.深部動脈から皮膚への穿通枝は内側部に多く,MPP法ではその根幹となる内側上・下膝動脈が損傷される.今回の対象者もMPP法であったため,内側の血流回復が遅延したと考えられる.次に,屈曲角度間に有意差は認めなかったが屈曲角度の増加に伴い低下する傾向があった.Johnsonの報告では,屈曲90度で経皮酸素分圧は有意に低下し,我々の健常人における先行研究では,屈曲120度で全ての測定部位が有意に低下した.Johnsonは創部治癒に必要なマクロファージや線維芽細胞の活動には,経皮酸素分圧値が20mmHg以上必要であると報告し,Hohnらは白血球の効果的な殺菌作用発現のためには,局所酸素分圧が30mmHg以上必要であると報告している.よって,最も経皮酸素分圧が低下する術後4日間はCPMやROM運動時の角度を90度以内に設定し,創部治癒を視野に入れた運動療法を進めることが重要であると考える.【理学療法学研究としての意義】TKA後,創部周囲で生じる経皮酸素分圧の変化を捉えることは,TKA後早期の運動療法において重要な一因子に成り得ることが示唆された.