理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-S-01
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セレクション口述発表
脳卒中後片麻痺者における歩行開始動作に筋の同時活動が与える影響
北谷 亮輔大畑 光司橋口 優山上 菜月佐久間 香澁田 紗央理阿河 由巳大迫 小百合西部 千恵美
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抄録
【はじめに、目的】 筋の同時活動とは主動作筋と拮抗筋が同時に活動することである。筋の同時活動は脳卒中後片麻痺者において代償的な姿勢制御戦略として挙げられる一方、中枢神経系の障害により、適切な筋の同時活動が障害されてしまうことが姿勢制御の困難を引き起こす場合も報告されており、不明確な点が多いのが現状である。このため、動作課題中に姿勢制御として筋の同時活動がどのような影響を与えているか検討することは、効果的な運動介入を考える上で重要となる。高い姿勢制御を要する動作として、歩行開始動作が挙げられる。この動作は静的な立位姿勢から動的な歩行へと変化するため、歩行動作自体よりも高いバランス能力が必要となり、脳卒中後片麻痺者では転倒リスクが高い動作とされている。歩行開始動作では立位姿勢から前方への運動量を形成する動作能力が求められることから、前方への運動量を評価する報告がされている。しかし、脳卒中後片麻痺者において歩行開始動作時の前方運動量と筋の同時活動について検討した報告はない。本研究の目的は、脳卒中後片麻痺者における歩行開始動作時の前方運動量と筋の同時活動、および通常歩行速度との関係を明らかにすることである。【方法】 対象は発症後6ヶ月以上、地域在住の脳卒中後片麻痺者18名(平均年齢54.6±12.0歳、男性13名、女性5名、下肢Brunnstrom Recovery Stage III7名、IV7名、V3名、VI1名)とした。動作課題は、床反力計(Kistler社製)2枚の上で裸足にて快適な足幅で静止立位を取らせ、2.5m前方のLEDライトによる開始合図後、出来る限り早く前方2mの歩行路を歩き始めることとした。測定条件は麻痺側・非麻痺側から歩き始める条件をそれぞれ3回ずつ測定し、解析には各値3回分の平均値を使用した。床反力計と表面筋電図(Noraxon社製Telemyo2400)、加速度計(MicroStone社製)を同期し、踵部に設定した加速度計と床反力垂直成分によって足部の床接地と離地を判断した。動作開始合図から1歩目の遊脚側接地後に支持側が離地するまでを動作解析区間とし、100%に時間の正規化を行った。先行研究に基づき、床反力の前後成分の積分値を体重で正規化した値を前方運動量(以下APM)(Ns/kg)として各条件にて算出した。筋活動は麻痺側・非麻痺側の前脛骨筋、外側腓腹筋にて測定し、得られた筋電図は10~500Hzにてフィルター処理した後、整流化を行った。各筋における筋電図の振幅は動作時の筋活動の平均値を100%として正規化し、同時活動指数としてCoactivation index(以下CoI)を各条件それぞれ支持側にて算出した。また、歩行能力として、裸足での10m快適歩行速度を測定した。統計処理は、各条件におけるAPMとCoI、APMと歩行速度の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。本研究の有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本学倫理委員会の承認を得て、各対象者に測定方法および本研究の目的を説明した後、書面にて同意を得て行われた。【結果】 非麻痺側からの歩行開始条件において、APMと支持側である麻痺側のCoIに有意な負の相関が得られた(r=-0.79、p<0.05)。麻痺側からの歩行開始条件も同様にAPMと支持側である非麻痺側のCoIに有意な負の相関が得られた(r=-0.54、p<0.01)。また、非麻痺側からの歩行開始条件においてのみ、APMと歩行速度に有意な正の相関が得られた(r=0.52、p<0.05)。【考察】 脳卒中後片麻痺者において、麻痺側・非麻痺側ともに筋の同時活動が増大するほど歩行開始時の前方運動量が低下していた。歩行開始時の前方運動量は足圧中心が後方移動することで身体重心との位置関係にずれが生じることで形成される。筋の同時活動は関節の固定性を高め、姿勢の安定性を代償する一方、相反的な活動が低くなり、滑らかな足圧中心の移動を阻害してしまうため、筋の同時活動の増大により歩行開始時の前方運動量が低下すると考えられる。さらに、非麻痺側から歩行開始する条件では前方運動量が低下すると歩行速度も低下していた。脳卒中後片麻痺者において麻痺側の単脚立脚期の減少が歩行時の特徴として挙げられており、麻痺側が支持側となるこの条件で、麻痺側下肢により前方運動量を大きく形成できない者は歩行能力が低くなることが示唆された。そのため、片麻痺者の歩行能力改善のために、歩行開始動作を評価・改善していくことは有意義である可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】 脳卒中後片麻痺患者において、歩行開始時の前方運動量に筋の同時活動が影響しており、運動介入により歩行・バランス能力だけでなく、効率的な筋活動様式を獲得していくことが歩行能力向上に重要であると考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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