理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-21
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ポスター発表
当院における人工呼吸器管理の急性期脳卒中患者の傾向
小蒲 京子石井 智子
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キーワード: 脳卒中, 人工呼吸器, 急性期
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抄録
【はじめに、目的】当院は東京都江戸川区にある脳卒中医療を中心とした、二次救急指定病院である。急性期故に、脳循環や呼吸・代謝といった全身状態が不安定な状態に陥りやすく、理学療法が円滑に進まないことがある。特に、人工呼吸器管理の重症脳卒中患者では更なる活動制限が生じ、長期臥床が強いられるのが現状である。当院では、処方数は僅かであるが人工呼吸器管理の重症脳卒中患者に対してもベッドサイドリハビリを実施している。しかし、予後や理学療法の必要性や有用性などの報告は少ない。そこで、当院での傾向を検討し考察を加えた。【方法】対象は平成23年1月 から平成24年8月に当院に入院していた自宅発症の脳卒中患者32名。A群を理学療法開始時に人工呼吸器管理(日数10.7±8.2日)であった15名(年齢56.8±9.4歳、男性11名・女性4名)、B群を非人工呼吸器管理の17名(年齢66.8±11.9歳、男性9名・女性8名)である。尚、人工呼吸器による影響を検討する為に、A群とJapan Stroke Scale(以下、JSS)、Glasgow Coma Scale(以下、GCS)が同等の患者をB群では上記期間より抽出した。A群の疾患内枠は(脳梗塞13%、脳出血13%、くも膜下出血73%)、JSS18.6±8.5点、GCS7.1±4.6点。B群の疾患内枠は(脳梗塞6%、脳出血53%、くも膜下出血41%)、JSS15.5±6.7点、GCS8.5点±3.9点であった。A・B群間の手術施行、Intensive Care Unit(以下、ICU)在籍日数、在院日数、入院から理学療法開始日数、理学療法開始からベッドアップ・端座位までの日数、理学療法開始時と終了時のBarthel Index(以下、BI)・Japan Coma Scale(以下、JCS)、転帰先を比較検討した。尚、Mann-WhitneyのU検定を用い危険率5%以下を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】今回の調査内容については、当医会の個人情報保護法に関する規定に則って個人が特定できる情報は用いなかった。【結果】A・B群間で有意な差が認められた項目は、手術施行A群93%、B群53%(P<0.05)、ICU在籍日数A群38.5±17.0日、B群21.3±10.8日(P<0.01)、在院日数A群64.7±21.0日、B群37.1±15.6日(P<0.01)、入院から理学療法開始日数A群3.9±2.0日、B群2.5±1.0日(P<0.05)理学療法開始からベッドアップA群19.1±11.1日、B群6.4±4.8日(P<0.01)、理学療法開始から端座位A群24.3±11.4日、B群6.4±5.2日(P<0.01)、理学療法開始時のJCSはA群Ⅲ-200、B群Ⅱ-10(P<0.05)に認められた。有意な差が認められなかった項目は、最終時BIはA群16.9±29.4点、B群32.9±37.3点、転帰先は自宅A群7%、B群18%・転院A群93%、B群82%であった。【考察】今回の結果より、A群はB群に比べ手術施行の症例が多く、ICU在籍日数や在院日数、理学療法開始時期や離床開始時期において期間を要している。しかし、転帰先や最終時BIには有意差が認められなかった。人工呼吸器管理は、絶対的に医学的管理が必要となり先行研究からもICU在籍日数、在院日数へ影響を与えるリスクファクターとして挙げられている。今回の結果から重症脳卒中患者においても人工呼吸器管理は、ICU在籍日数、在院日数に影響を及ぼす因子として考えられた。また、A群においては、くも膜下出血と脳出血の症例が86%であり、手術施行が93%と大半を占めていることがわかった。手術施行後に理学療法が処方される当院の特徴上、A群では理学療法開始時期が遅れていると考えられ、また術後は脳槽ドレーンなどの脳外的管理や全身状態の不安定により、離床開始時期においてもB群と比較しA群では遅れをとっている。人工呼吸器離脱後も脳槽ドレーンやバイタルサインといった脳外的リスク、また意識障害や長期臥床による廃用症候群の影響で、A群では更に離床が遅延してしまい3週間前後で端座位練習が開始されている。一方で、疾患の特性による可能性はあるが、最終的な転帰先やBIでは有意差が認められなかった。人工呼吸器管理であっても、最終的な転帰先やBIへは影響を与えない可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】人工呼吸器管理の重症脳卒中患者はハイリスクで全身状態の安定が最優先であり、理学療法の対象となり難い症例が多く、当院での割合も脳卒中患者全体の数%である。しかし、主治医、看護師、理学療法士など他職種と連携し十分にリスク管理を行いながら、関節可動域練習、良肢位保持に加え排痰介助や胸郭モビライゼーションを実施していく必要があると考える。合併症を予防し、機能的コンディショニングを整えることは、スムーズな離床につながり、牽いてはセルフケアの獲得といった長期的な予後にも影響を与えるのではないだろうか。今後、人工呼吸器管理によって最終的な転帰先やBIへの影響について研究を進める必要がある。
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© 2013 日本理学療法士協会
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