理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: G-O-05
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一般口述発表
2次元回帰分析を用いたリハビリテーション対象患者の転帰に関する地理空間的回帰性の検討
溝田 康司島崎 一也鬼木 泰博
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抄録
【はじめに、目的】 リハビリテーションの効果判定の1つに在宅復帰率が挙げられるが、これは医療施設以外の施設も含めた広義の在宅定義による復帰率を統計的に示したもので、患者自身の居住所に基づいた地理空間的回帰すなわち、入院前居住所と転帰先居住所の一致性、近接性、類似性を示したものではない。本研究は、回復期リハビリテーションを提供する医療機関で入院加療を受けた患者の、入院前居住所(以下発地)と転帰先居住所(以下着地)の地理空間的類似性について、Toblerが提案し中谷、若林らが発展させた空間統計学的手法の1つである2次元回帰分析を援用し検討を行うことを目的とする。【方法】 対象は、2009年度~2011年度の3年間に協力医療機関を退院した全患者3568名のうちリハビリテーションが処方された熊本県内に居住所のある患者1618名を分析対象とした。 方法は、使用したデータは対象患者の入院前居住所で、協力医療機関内で東京大学空間情報科学研究センターがWeb上で提供するCSVアドレスマッチングサービスを利用し経緯度情報に変換。その後同施設内で居住所を破棄した。転帰先が患者居住所以外の施設等の場合には、施設住所を取得後、Web上で経緯度情報を取得した。取得した経緯度情報は、RCommanderを用いて発地-着地各分布の回帰直線をオーバーレイし相互類似性比較の視覚化を図った。また、2次元回帰分析にはユークリッドモデルを適用し、発地と着地の空間的類似性について2次元相関係数を求めた。なお、分析にはYabeがWe上で公開しているExcelマクロプログラムを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 患者データは個人が特定できないよう街区または地番レベルの座標データに変換されている。また、本研究は協力医療機関及び熊本保健科学大学(臨23-27)で承認を受け行われたものである。【結果】 ユークリッドモデルによる2次元回帰分析の結果、地理空間的発地-着地間の相関係数は全年度で決定係数r2=0.87、2次相関係数r=0.93で極めて高い類似性を示し、転帰先は地理空間的にも患者居住所と高い近接性が確認された。また、2次相関係数は年次ごとに上昇し、2009年度では決定係数r2=0.84、2次相関係数r=0.92、2010年度では、決定係数r2=0.88、2次相関係数r=0.93、2011年度では決定係数r2=089、2次相関係数r=0.94となり、より地理空間的回帰性が高くなる傾向が認められた。【考察】 本研究では、Toblerが提唱した空間回帰分析手法の1つである2次元回帰分析を援用し、入院前患者居住所と退院後患者居住所の類似性を相関係数で表現し、転帰に関する地理空間的回帰性の検討を行った。その結果、リハビリテーション対象患者の発地-着地間には、極めて高い地理空間回帰が認められた。この背景にはリハビリテーションを提供する医療機関がこれまで以上に患者居住所周辺を基盤とした生活支援に主軸を移し地域リハビリテーションの取り組みを推進しようとしていることがあるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 この分析手法の最大の特徴は、時間的遷移によって変化した地物等の空間配置の変化、すなわち比較する2つの座標系を重ね合わせ、そのずれを最小二乗法にもとづいて統計学的に分析することで、類似度を推定することが可能となる点にある。この手法を導入することにより、在宅復帰率では捉えきれない地理空間に定位される生活拠点としての「住み慣れた場所」の特定が可能となる。さらに、地理空間を属性データにもとづいて統計的に分析する地理情報システム(Geographic Information System:GIS)と組み合わせることで、年齢、性別、傷病名や機能レベル、生活活動レベルといった患者属性を整理し時空間的に視覚化し、患者の継続的なリハビリテーション受療行動の拠点(医療機関や通所系施設等)がどこか、受療行動に伴う患者や家族の経済的な負担はどの程度なのか、あるいはどのようなニーズを持った患者がどこに生活し、その数はどの程度なのかなどが総合的に分析可能なる。これらは、地域患者の特性に応じた効果的で効率的なリハビリテーションサービス提供体制の構築に重要な役割を果たすものと考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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