抄録
【はじめに、目的】理学療法分野における卒後教育として、日本理学療法士協会が運営する卒後教育プログラムと施設毎の臨床実践状況に応じた新人教育プログラムが実施される事が多い。この際、教育指導に関する重点として、知識などに関する“認知領域”、技術面に関する“精神運動領域”、接遇などに関する“情意領域”を意識したプログラム構成が期待される。しかし、これらが指導者側、受講者側にどの程度認識され、さらに新人教育プログラムにおける効果として、双方ともどの部分に重点を置いているかについては明らかではない。そこで、本研究では新人教育プログラムの効果と認知・精神運動・情意領域それぞれの影響について横断的に検討した。【方法】国立病院機構中国四国ブロック管内の25施設186名に対し郵送でのアンケート調査を実施した。アンケートは指導者と新人に同一の内容を実施した。内容は新人教育プログラムの有無、目標設定の有無など各施設の新人教育の概要を問う質問と教育の質と量、教育の効果に関する質問で構成した。教育の質と量に関する質問は認知領域を座学での講義、精神運動領域を実技指導、情意領域を接遇やマナーという言葉に置き換えた。この3領域に加え能動的な教育を症例発表など自分の考えを表現する機会としそれぞれに対して充実していると感じるかをLikert scaleを用いて5段階評価での回答を得た。アンケート結果は教育の効果との関連をχ2独立性検定とロジスティック回帰分析により解析を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】アンケートに際しては、書面にて説明し同意を得た。【結果】回答があったのは20施設、156件で回収率は83.8%であった。単純集計の結果では新人教育プログラムがある36%、新人教育に目標設定がある40%、教育期間は72%の施設で1年または1年以上であった。指導者と新人の比率は指導者36%、どちらとも言えない19%、新人45%であった。教育の質と量に関する質問で充実していると回答があったのは認知領域の質37%、量7%、精神運動領域の質15%、量6%、情意領域の質31%、量11%、能動的教育の質30%、量6%であった。新人教育の効果と教育内容のχ2独立性検定で有意差が認められた項目は、新人教育プログラム、認知領域の質、能動的教育の質(P<0.05)であった。ロジスティック回帰分析においても教育の効果に関与する説明変数(P<0.05)は認知領域の質(オッズ比4.04)と能動的教育の質(オッズ比2.58)であった。【考察】認知領域と能動的教育の質は新人教育の効果に関与するという結果であった。これは講義などで伝えられる知識が、臨床で有効に活用できれば教育の効果として実感できるのではないかと考える。「見たこと、聞いたことがある」知識を最終的に言語化できるようになる事が重要であり、臨床の場面で、または症例発表など自分の考えを伝える機会で教育から得られた知識が自分の言葉となって伝えられたと感じた時、指導者も新人も教育の効果があったと実感できるのではないかと考える。新人教育プログラムにおいて、教育内容が具体的に臨床でどのように生かされるのかを明確に提示する事が重要であり、臨床指導者としては、症例を通じて知識を活かせる経験ができる場を設け、新人の自己効力感を高める必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】理学療法士の新人教育の効果に関与するものを明確にし、今後の新人教育においてより有効な教育の方法を検討する1つの材料になると考える。