抄録
【はじめに、目的】 脳卒中患者の機能回復に運動学習理論を適応することは、推奨され広く用いられている。学習方法の種類として、セラピストの教示等による同時フィードバックを付加して意識下で学習を行う顕在学習と、教示等のフィードバックを付加しない無意識下で行う潜在学習がある。脳卒中患者の機能回復において両者の比較の報告は散見するが、系統的に検討した報告はみられない。本研究の目的は、顕在学習と潜在学習の違いが脳卒中患者の学習効果にどのような影響を及ぼすか検証することである。【方法】 Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(Liberati.2009)に準じてシステマティックレビューを行った。文献検索は電子データベース(PubMed・PEDro・Cochran library・CINAHL・医中誌Web.Ver.4)によるウェブサーチ、及び引用文献のハンドサーチを行った。検索期間は1980年1月から2012年9月、言語は英語及び日本語とした。検索用語は、stroke・implicit・explicit・therapy・脳卒中・顕在学習・潜在学習・運動療法・及びその関連語により検索式を作成し行った。適格基準は、1)試験デザインがランダム化比較試験か準ランダム化比較試験である。2)対象者が脳卒中患者である。3)顕在学習群と潜在学習群の比較であるとした。除外基準は、1)アウトカムが認知課題や言語課題のものとした。収集した文献の質的評価は、PEDro score(10点満点)の判定基準に従い評価した。2名で独立して評価し、結果が異なる場合には各項目の判定基準を再度確認して、評価者の合意が得られた結果を採用した。データの統合は、アウトカムが一致した文献が複数あり、かつ数値データを入手できた文献を対象に行った。臨床的異質性は、対象・介入期間・方法・アウトカムについて評価者が評価した。統計学的異質性については、χ²検定とI²値により検討した。また、同一のアウトカムを採用している論文がひとつのみであり、かつ数値データを入手できた文献については、効果量を算出しPEDro scoreの結果と合わせて検討した。統計解析にはRevMan5(Cochrane Information Management System)を用いた。【結果】 230編の文献が検索され、適格基準をみたした5編を最終的に解析対象とした。文献間に臨床的異質性が認められたため、文献間の統合は行わず各文献について効果量を算出した。Orellらによる不安定板上での立位保持課題において、潜在学習群がわずかに不安定板の傾きが少なかった[Standard Mean Difference:1.41、95%信頼区間:-0.16~2.99、PEDro score:3点]。Boydらによる健側上肢の反応時間課題において、潜在学習群が有意な反応時間短縮の保持効果を認めた[2.52、0.64~4.41、5]。Laraらによる健側上肢の追跡課題において、潜在学習群がわずかに時間遅延短縮の保持効果を認めた[0.44、-0.82~1.72、4]。Mountらによる車いす操作の課題において、両群間の動作完遂の保持効果に有意差は無かった[odds rate:0.86、p:0.89、95%信頼区間:0.12~5.98、PEDro score:2点]。Mountらによるソックスエイド操作の課題において、顕在学習群が有意な動作完遂の保持効果を認めた[19.92、0.03、1.34~926、2]。【考察】 解析に用いた文献のアウトカムは、バランスや日常生活動作など多岐にわたった。各々で統合するほどの文献数は得られず、現段階では本テーマに関する介入研究数が少ないといえる。個別に算出した効果量では、顕在学習と潜在学習各々の効果を支持するものがあった。これは、アウトカムにより課題遂行に伴う記憶の種類が異なることが要因かもしれない。顕在記憶を用いるソックスエイド操作の課題では顕在学習群で良好な効果を認め、潜在記憶を用いるバランス課題では潜在学習群で良好な効果を認めていた。また、顕在学習で学習効果を得るにはフィードバックの種類や質も要因であると考える。顕在学習の効果を示したソックスエイド操作の課題では顕在学習群に与えるフィードバックに綿密な計画がなされていた。本研究では対象者を脳卒中患者と限定したが、健常者と対比して学習効果の特徴を検討することも有効であると考える。今後は、研究デザイン・課題・アウトカム・フィードバックの種類や質を明確にした研究を行い、脳卒中患者における顕在学習と潜在学習の効果を明らかにする必要がある。【理学療法学研究としての意義】 近年、検証され始めている顕在学習と潜在学習の比較をシステマティックレビューにより検討した。運動学習において、有効性の高い学習方法を明らかにすることは、理学療法を実施する際の科学的根拠の一助となる。