抄録
【はじめに、目的】 脳卒中後の機能回復過程には,脳内における大脳皮質の神経ネットワークの再構築が関与すると考えられている.運動機能回復過程における脳内変化に関しては,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)やポジトロン断層法(PET)などが広く使用されている.その中で,麻痺側と同側運動野の活動が機能回復に関与することも報告されているが,そのメカニズムは明らかでない.近年,拡散テンソルTractography(以下Tractography)は,連続した脳白質神経線維の走行を描出する上で注目され,神経線維の障害を捉える可能性が示唆されている.本研究では,脳卒中後の機能回復過程における運動神経線維変化に対するTractographyの有用性について検討した.【方法】 平成24年4月から9月までに脳梗塞(心原性を除く)または脳出血の診断で当院に入院し,入院時にTractographyの撮影を行ったのは14例あった.今回はその中で,重度麻痺 (上下肢いずれかがBrunnstrom stageⅢ以下)があり,Tractographyを発症から約1カ月後に再検できた4例を対象とした.Tractographyの撮影には Philips 社製3.0Tesla –MRI装置を使用した。撮影は基準線を眼窩外耳孔線とし,スライス間隔は3 mm,撮影枚数は50枚の条件で行った.解析にはPhilips社製Fiber Trakを使用し,大脳脚を起点,中心前回を終点に関心領域を設定し,病巣側および非病巣側の神経線維数を算出した.機能評価はBrunnstrom stage,握力,Motricity Index,Barthel Index,FIM‐motor items(以下FIM‐M)を測定した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,当院の医道倫理委員会の承認を得て実施した(番号:007).【結果】 Tractographyの撮影が経時的に可能であった4例の内,運動機能の回復が著しい回復良好例は1例,運動機能の回復が乏しい回復不良例は3例あった.回復良好例では,入院時の神経線維数は病巣側87,非病巣側102であった.1ヶ月後の再検では病巣側95,非病巣側274と非病巣側の著明な神経線維数の増加を認めた.運動機能に関しては,Brunnstrom stageでは,上肢はIIからIV,下肢・手指はIIからVへ改善した.Motricity Indexは上肢47/100から65/100,下肢0/100から51/100,麻痺側の握力は5.3kgから11.2kg,Barthel Indexは15/100から75/100,FIM‐Mは16/91から62/91へと大きく改善した. 回復不良の3例は,入院時と1ヶ月後を比較して神経線維数に著明な変化はなく,運動機能においても明らかな変化はないか軽微な改善のみであった.【考察】 本研究では,回復良好例は,回復不良例に比して,非病巣側の神経線維の増大および運動機能の改善を認めた.従来の報告では,皮質レベルで非病巣側の脳が賦活することが,運動機能の回復に関連することが示されている.本研究の回復良好例では,神経線維レベルにおいても非病巣側の変化が運動機能回復に影響する可能性が示唆され,非病巣側の皮質レベルの活動には,非交叉性の皮質脊髄路などの神経線維活動も反映している可能性が考えられるとの報告もある. 今後さらに,対象のサンプル数を増やし,Tractographyにより,脳卒中後の神経ネットワークの再構築の把握を行う事が可能か否か検討する必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究では,Tractographyが脳卒中後の機能回復過程における運動神経線維変化を捉える評価法として有用な可能性が示唆され,脳卒中領域における理学療法の発展に寄与すると考えられる.