理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-27
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ポスター発表
大腿骨前捻角と非荷重位・荷重位の膝関節アライメントの関係
馬場 歩倉吉 真吾楠元 正順永崎 孝之二宮 省悟
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抄録

【はじめに、目的】前十字靱帯損傷、Anterior knee painなどに代表される膝関節疾患は、大腿骨に対する下腿の回旋ストレスが大きく関係している。これらの動作分析には膝関節の静的アライメントを評価することが重要である。それは、静的アライメントの違いにより運動時の回旋ストレスは変化すると考えられるためである。先行研究においても、大腿骨前捻角の大きさにより大腿骨の運動方向や回旋量に違いが生じる、また大腿骨前捻角が大きいほど大腿骨の内旋、膝関節の外旋が大きくなると報告されている。しかし、非荷重位と荷重位において大腿骨前捻角が膝関節の回旋に対しどの程度影響を及ぼすのかは不明である。そこで、本研究は大腿骨前捻角と非荷重位・荷重位の膝関節の関連性を静的アライメントから検討し、歩行やランニング、着地、ストップ動作の分析につなげることを目的とした。【方法】対象は、本研究の主旨に同意の得られた下肢に整形外科的疾患のない健常成人16 名、32 肢(男性8 名、女性8 名、平均年齢24.4 ± 1.5 歳、平均身長164.6 ± 7.1cm、平均体重59.3 ± 11.1kg)とした。荷重による足関節の影響を排除するため、アーチ高率を測定し11%未満・15%以上の被検者は研究の対象から除外した。測定課題は大腿骨前捻角度、背臥位・立位での上前腸骨棘-膝蓋骨中央-脛骨粗面のなす余角(以下Q-angle)とした。大腿骨前捻角度の計測はCraig testを用い、腹臥位となった対象者の尾側からデジタルカメラ(IXY10s、Cannon社製)を定位置に固定して撮影を行った。背臥位・立位のQ-angleの計測は、両側上前腸骨棘・膝蓋骨中央・脛骨粗面にマーカーを添付しそれぞれの肢位で条件が同様となるよう配慮して、上記と同様のデジタルカメラを用いて撮影した。それぞれの撮影した画像を、画像処理ソフトウェアImageJ 1.44(NIH製)を用いて角度を算出した。角度計測は各計測を5 回行い最大値、最小値を除いた3 回の平均値を角度として採用した。統計処理はPearsonの相関係数を用いて相関関係、偏相関を検討した。また、危険率5%未満を統計学的有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究を行うにあたって被検者には、「ヘルシンキ宣言」に基づき本研究の目的と方法について説明し同意を得た。また、得られた個人情報は本研究以外では使用しない旨を説明し、情報の管理に配慮した。【結果】各測定項目の平均値±標準偏差は、大腿骨前捻角13.9±3.9°、背臥位Q-angle15.3±7.6°、立位Q-angle20.8±9.8°であった。大腿骨前捻角と背臥位Q-angle間(r=0.70 p<0.01)、大腿骨前捻角と立位Q-angle間(r=0.56 p<0.01)、背臥位・立位Q-angle 間(r=0.86 p<0.01)の全てにおいて、正の相関を認めた。それぞれの偏相関を検討したところ、大腿骨前捻角と背臥位でのQ-angle間(r=0.52 p<0.01)及び背臥位・立位Q-angle間(r=0.79 p<0.01)で正の相関を認めた。しかし、大腿骨前捻角と立位でのQ-angle間には有意な相関を認めなかった。【考察】大腿骨前捻角は、股関節のアライメントを決定する一要因であり、その影響は膝関節アライメントにも波及すると考えられる。本研究結果から、各測定項目の相関関係は、大腿骨前捻角が大きいほど大腿骨の内旋、膝関節の外旋が大きくなるとする先行研究と同様の結果となった。しかし、それぞれの偏相関においては、大腿骨前捻角は非荷重位での膝関節アライメントと相関があるが、荷重位での膝関節アライメントとはほぼ無相関であった。非荷重位・荷重位でのQ-angle間に強い偏相関関係を認めたために、大腿骨前捻角と荷重位での膝関節アライメントに見かけ上の相関を認めたものと考えられる。以上より、非荷重位では下肢各関節のアライメントを決定する要因である筋収縮や上半身質量中心位置、骨盤の傾斜等の要素が排除されることで、大腿骨前捻角が膝関節のアライメントに大きく影響していることが示唆された。荷重位となると膝関節のアライメントは上記のような要因の影響を受けると考えられる。そのため大腿骨前捻角の影響は相対的に小さくなると考えられ、その他の要因が荷重位での膝関節の静的アライメントを決定していると推察する。【理学療法学研究としての意義】今回得られた結果より、荷重位での膝関節の静的アライメントに影響を及ぼす要因を明らかにすることで、膝関節疾患に対する運動時の回旋ストレスを考慮した評価並びに効果的な理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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