理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-49
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ポスター発表
歩行時方向転換動作における下肢筋活動の筋電図による解析 サイドステップ時の支持側下肢長腓骨筋活動に着目して
井上 裕次森島 健鈴木 正則遠藤 正樹川間 健之介
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抄録

【はじめに、目的】脳卒中片麻痺や下肢の整形外科疾患などにより歩行能力が低下した患者にとって、屋外を自由に歩行出来るまでに回復するか否かは生活の質に大きく関わる。実用的な屋外での歩行を獲得するためには不整地など固定された環境の他にも様々な外部環境に適応して歩行する能力が求められる。特に自分の意思とは関係なく動いている歩行者などに接触しないように歩行するためには、歩行しながら的確に方向転換する能力が歩行自立の重要な要因となる。歩行時方向転換動作については、その転換様式を支持側と反対方向へ転換するサイドステップと支持側と同側へ転換するクロスオーバーの2 通りに分類されている。サイドステップは身体重心が支持基底面内に位置することから安定性は高く、クロスオーバーはサイドステップに比べ安定性は低いと報告されている。しかしながら、方向転換動作に関してそのメカニズムを示唆する文献は少なく、障害者の転換動作を解明するには至っていない。本研究は、サイドステップでの方向転換動作について、メカニズムを明らかにすることとし、特に方向転換方向の推進力として必要と思われる振り出し1 歩前の支持側下肢の長腓骨筋活動に着目しその筋活動の特性を明らかにすることを目的とする。【方法】1.被験者 対象は整形外科疾患などのない健常成人男性4 名(年齢36.8 歳± 5.12)とした。2.手続き 筋電位の測定には筋電計(キッセイコムテック社製MARQ)を用いた。測定した筋電位の解析を行うために床反力計(KISTLER社製)を用いた。方向転換動作はサイドステップを用い、振り出し1 歩前の下肢を支持側、振り出す下肢を転換側とした。歩行速度は任意の速度で「普通」「速く」「遅く」の3 条件で歩行した。筋電計測定側は支持側とし、電極の貼付位置はSENIAMを参考に長腓骨筋に貼付した。方向転換する角度は0°(直進)、30°、60°、90°とし、それぞれの角度で3回測定を行った。3.解析方法 解析には解析用ソフト(キッセイコムテック社製キネアナライザー)を用いた。筋活動については床反力計の左右成分から、踵接地後内側(方向転換方向)方向へ反力の向きが変換した時点から、床離地前反力が外向きに変換する時点までの電位を抽出した。抽出した電位を正規化し単位時間あたりの積分値を算出、平均値を求め代表値とした。代表値をそれぞれの速度0°に対する割合として算出した。解析には2 要因分散分析を用い、各速度と各角度間で比較した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき、すべての被験者に研究の目的、方法、リスクを口頭にて説明し同意を得た。【結果】長腓骨筋の筋活動を比較したとき、「速い」速度と「普通」の速度では速度および角度による筋活動の差はみられなかった。「遅い」速度では30°の転換動作に比べ90°での転換動作で有意に長腓骨筋の筋活動に増加が認められた(F(2,6)=7.4, p<.05)。【考察】健常者であれば、通常歩行時にはサイドステップとクロスオーバーの転換動作を的確に用い歩行している。しかし片麻痺患者などにとって、クロスオーバーによる方向転換は身体重心が支持基底面のさらに外側へ向かうため困難な動作となる。そのため通常はサイドステップによる転換動作を用い方向を転換させる。サイドステップで方向を転換するには、支持側の筋活動による転換方向への推進力が必要となることが予測される。支持側で転換方向への推進力を得るためには転換方向へ向く床反力が必要となる。その反力を発生するためには足関節の外返し筋群の筋活動が必要となると考えた。足関節外返しに関与する筋群は主に長・短腓骨筋となるが、表面筋電計の限界から長腓骨筋の筋電位を測定した。結果から歩行速度がある程度保たれた状態では、方向転換には支持側の筋活動のみではなく、振り出す側の下肢の慣性力などの要因が影響することが予測された。一方速度が遅くなった場合、この慣性力を生み出すことができない。そのため方向を転換するためには支持側の足関節外返し筋群のより強い収縮に依存することが示唆された。これらから歩行速度が低下せざる得ない障害者にとって、方向転換には支持側の足関節外返し筋群の筋活動が重要であることが予測される結果となった。【理学療法学研究としての意義】本研究は方向転換動作についてのメカニズムを筋活動から明らかにすることを目的とした。結果より、歩行速度が遅い場合のサイドステップでは、支持側足関節外がえし筋群の筋活動が転換方向への推進力を生み出すために重要であることが示唆された。これにより、発症後の歩行能力獲得に向けたプログラム立案の一助となると考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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