理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-49
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ポスター発表
転倒により大腿骨近位部骨折を受傷した患者と健常高齢者の歩行周期の変動係数分析
小久保 充松山 太士斎藤 良太山本 裕紀田岡 葵牛山 秀太郎矢崎 進
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抄録

【はじめに】近年歩行の変動係数に着目した研究がいくつか報告されている。MakiらやHausdroffらの報告によると転倒した高齢者の1 歩行周期時間の変動係数が転倒していない高齢者に比べ有意に大きかったと報告している。しかし、歩行周期の中でもどの時期に変動が大きいかは明らかになっておらず、さらに障害高齢者の研究は皆無である。今回、大腿骨近位部骨折患者(以下、骨折群)と地域在住健常高齢者(以下、健常群)を対象に歩行周期ごとに計測可能な床型足圧センサーを使用して比較・分析することで、歩行周期の中でもどの時期に変動係数が大きくなるのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は当院入院中で歩行自立となった骨折群17 名(平均年齢82 ± 11 歳:男性4 名、女性13 名)平均年齢。65 歳以上の健常群17 名(平均年齢77 ± 5.9 歳:男性6 名、女性11 名)とした。健常群の除外基準は10m歩行が不可能なもの、歩行時に疼痛のあるもの、6 ケ月以内に骨関節疾患、神経系疾患の既往歴があるもの、過去1 年以内に転倒歴があるものとした。測定方法は床型足圧センサー(Zebris社FDM system)を使用し、1 歩行周期時間と変動係数を求めた。FDM とは歩行分析を行うための足圧測定システムで、計測はプレート上を歩行するのみで正確な歩行周期時間などが歩行周期ごとに求められる。歩行の変動係数は抽出されたデータの標準偏差/平均値× 100 で求めた。測定時には十分な助走路を確保し、片道3 回分のデータを抽出した。歩行形態は骨折群、健常群ともに自由歩行とした。骨折群の測定時期は退院時とした。健常群の測定は右側とした。測定項目は歩行周期、骨折群の両脚支持期、健常群の両脚支持期、骨折群患側の単脚支持期(以下、患側SS)、骨折群の健側単脚支持期(以下、健側SS)、健常群の単脚支持期(以下、健常SS)とし、骨折群と健常群を比較検討した。統計学的解析は2 群間の比較を対応のないt検定を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮・説明と同意】対象者およびその家族に対しあらかじめ本研究の趣旨、および測定時のリスクを十分に説明した上で同意を得た。本研究は、八千代病院倫理委員会の承認を得て行った。【結果】骨折群は健常群に比べ、歩行周期時間・変動係数はともに有意に増加した(p<0.05)。両脚支持期時間は骨折群が有意に増加(p<0.05)したが、変動係数は有意な差は見られなかった。単脚支持期時間は健常SS に比べ、患側SSと健側SSは有意に減少し(p<0.05)、変動係数は健常SSに比べ健側SSは有意に増加し(p<0.05)、患側SSは有意な差は見られなかった。【考察】骨折群は健常群と比較し、歩行周期時間の変動係数は大きくなり、先行研究と同様の結果となった。歩行周期のどの時期に変動係数が大きくなるかを分析すると、両脚支持期の変動係数においては有意な差は見られず、単脚支持期において健常SSに比べ、健側SSの変動係数が有意に大きく、患側SSは有意な差がない結果となった。1 歩行周期の変動係数は健側の単脚支持期に大きくなる傾向が示唆された。これは患側の支持性は低下し不安定になるものの、両脚支持期を増加させ、単脚支持期ではリズムは一定を保ち、安定性を確保することで変動係数に有意な差が出なかったと考えられる。患側に比べ健側は立脚時間が延長することからも代償を引き起こしやすく、変動が大きくなる傾向があると考えられる。今回の結果に関しては退院時の比較となるため、入院経過の中での変動係数の変化を見ることができていない。今後経過を見ていく中で、能力の改善に伴って単脚支持期の変動係数の減少が見られるかを検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】大腿骨近位部骨折者の歩行周期のどの時期に変動が大きいのかを明らかにすることで、再転倒予防の観点の歩行分析が可能となり、入院中のリハビリの治療プログラムや歩行の指導、歩行自立の判断、退院後の生活の指導を的確に行えるようになり、再転倒予防につながると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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