理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-07
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一般口述発表
人工股関節全置換術施行患者における改訂階段昇降テストの信頼性・妥当性の検討
尾藤 貴宣渡邉 翼天野 徹哉玉利 光太郎河村 顕治
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抄録

【はじめに、目的】 人工股関節全置換術(THA)施行後は疼痛・関節可動域が改善し,歩行能力や生活の質(QOL)が改善するとされている。しかし,階段昇降については術後も困難が続くとの報告があり,階段昇降能力がその他の運動機能と比べて回復が遅いため,自宅復帰への不安を生み,退院時期の決断に影響している可能性がある。退院時期の遅延は医療経済的な問題を惹起する可能性があるため,階段昇降能力の把握は重要である。階段昇降能力を評価する尺度についてはTimed stair test(TST)など諸家の報告がなされているが,いずれも方法・規格が統一されていないなどの課題がある。そのため,規格を統一し,簡便に測定を行うことのできる新たな階段昇降テストの開発は有用であろう。新尺度の開発に当たっては,10m歩行速度やTimed up and go test(TUG)などのゴールドスタンダードとの同時的妥当性と測定の信頼性の検討に加え,弁別的妥当性を検討し,これらとは異なる側面をも測定できる尺度であることを明らかにする必要がある。本研究の目的は,臨床現場でも簡便に測定することのできる新しい階段昇降能力を評価する尺度(改訂TST)を考案し,その検者内信頼性・同時的妥当性・弁別的妥当性・予測妥当性を明らかにすることである。【方法】 対象は当院整形外科にて変形性股関節症と診断され,初回THAを施行した10名(男性4名,女性6名,年齢68.9±10.4歳)であった。改訂TSTの階段の規格は,SAKAI社製のSP150の踊り場を含めた4段の階段(蹴上げ150mm,踏面300mm)とし,PerronらのTST遂行方法に準じて行った。改訂TSTは,第1相が椅子から起立し3m歩行する,第2相が階段を昇段する,第3相が方向転換し階段を降段する,第4相が3m歩行し椅子に着座するという第1相~第4相に相分けした。この測定から得られた改訂TSTの総所要時間と各相別の所要時間を求めた。なお,パイロットスタディとして健常者における改訂TSTの信頼性・妥当性の検討を行い,概ね良好な結果であることを確認した。THA施行患者における改訂TST・10m歩行速度・TUGは,術前・退院時・術後6週・術後3ヶ月の4時期に測定し,ICC(1,1)とPearsonの積率相関係数を用いて信頼性と同時的妥当性を検討した。弁別的妥当性については,改訂TSTが10m歩行速度とは異なる側面を捉えているかどうかを検討するため,それぞれの変数の手術後の回復率の違いを対応のあるt検定を用いて検討した。また,予測妥当性については,術後の入院期間と術前の改訂TSTとの関係をPearsonの積率相関係数を用い,その予測特性をReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線分析より求めた。データ解析は,SPSS ver.20.0を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号24-124)。対象者には趣旨を書面にて説明し同意を得た。【結果】 改訂TSTの検者内信頼性はICC(1,1)=0.95~0.97(p<0.001),同時的妥当性は,r=0.86~0.98(p<0.01)であった。弁別的妥当性については,退院時において10m歩行速度に比べ,改訂TST・第1~第4相は有意に回復率が低く(p<0.05),術後6週においても10m歩行速度に比べ,第3相は有意に回復率が低かった(p<0.05)。予測妥当性については,術前改訂TSTと術後入院期間はr=0.70(p<0.05)と有意な正の相関を認めた。また,バリアンス発生の識別精度が最も高い改訂TSTのcut off値は15.28秒(p<0.05)であり,曲線下面積は95.2%であった。さらにこの時の検査特性は,特異度は85.7%,陽性尤度比は7.0であった。【考察】 本研究の結果より,改訂TSTの検者内信頼性・同時的妥当性については,一定以上の水準を満たしていることが示唆された。一方,弁別的妥当性では,階段昇降能力は他の運動機能と比べて回復が遅れるという先行研究の知見を支持する結果となった。したがって,改訂TSTは10m歩行速度とは異なる側面を捉えている可能性があり,特に第2相と第3相の評価は,THA術後患者の歩行能力の評価のみでは知ることのできない応用的動作能力を反映している可能性があると考える。また,術前改訂TSTと術後入院期間は概ね高い相関を認めたため,術前の改訂TSTが遅い者は,術後入院期間が長いことが明らかになった。さらに,改訂TSTのバリアンス発生に関する判別能が一定の能力を有することが示唆されたため,入院期間を予測できる有用な指標になる可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 バリアフリー新法によれば,多数のものが利用する階段において蹴上げの寸法は160mm以下,踏面は300mm以上が基準とされている。改訂TSTはこれらの基準を満たし,且つ一定の検者内信頼性・同時的妥当性・弁別的妥当性・予測妥当性を有した新しい階段昇降尺度であることから,今後の臨床的応用に向けた更なる研究が必要である。

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© 2013 日本理学療法士協会
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