抄録
【はじめに、目的】非接触型前十字靭帯損傷は、男性と比較し、女性においてその受傷率が高く、受傷メカニズムにおける報告は女性スポーツ選手に多くみられている。前十字靭帯損傷(以下ACL)の危険因子は、内的因子と外的因子、複合因子に分類されており、内的因子の1つとして身体アライメントが挙げられる。先行研究では女性のアライメントの特徴として、Q角・膝関節外反・骨盤の前傾・大腿骨前捻角それぞれの増大を挙げ、この性差が外傷に関連することを示唆している。また、ACL損傷肢位は膝関節20~30度の軽度屈曲位、膝関節外反と膝関節内旋/外旋が組み合わさった肢位と報告されている。過去の下肢アライメントと着地動作時の膝関節外反角度との関係性に関する報告としては、大腿骨前捻角と最大膝関節外反角度に正の相関が認められたと報告している。しかし、これまでの研究における動作課題は着地動作のみとしていることが多く、また非予測的課題を選択した研究においては、身体アライメントとの関係性は述べられていない。本研究の目的は、両脚着地後の非予測的に方向転換動作を行う場合の膝関節外反角度と大腿骨前捻角及び骨盤傾斜角度との関係性を明らかにすることである。【方法】下肢に疾患を有さない健常女性14名(年齢25.0±2.4歳、身長158.6±4.2cm、体重55.3±7.5kg)を対象とした。ジャンプ動作後に片脚着地を行う側を利き脚とし、測定側とした。大腿骨前捻角計測方法は対象者を腹臥位にし、膝関節屈曲90度にて股関節を内旋させていき、大転子が最も外側に位置した際に、静止画像を撮影した。脛骨と垂直線のなす角を大腿骨前捻角とし、その角度を算出した。骨盤傾斜角度計測方法は、対象者の上前腸骨棘(以下ASIS)と上後腸骨棘(以下PSIS)に反射マーカーを貼付し、静止立位にて矢状面上から静止画像を撮影した。ASISとPSISを結ぶ線と、水平線のなす角度を骨盤傾斜角度とし、その角度を算出した。非予測的課題時の膝関節外反角度計測方法は、ASISおよび、膝蓋骨中心、内・外果中央の皮膚上に反射マーカーを貼付した状態で、30cmの台上から両脚着地した後、非利き脚方向にサイドステップを行わせた。非予測条件は先行研究を参考にし、サイドステップ動作に加え、着地のみを行う動作と着地後、非利き脚でクロスステップする動作の計3種類の動作を無作為に行った。動作の指示方法は、3色のLEDランプを点灯させることにより指示した。動作の記録は、4m離れた正面に設置した1台のデジタルビデオカメラを用い、撮影した。動作において、つま先が接地した瞬間をPre land、着地後最も上体が沈み込んだ瞬間をLandと定義し、動画においてPre land、Land の状態を確認後、静止画像として保存した。膝関節外反角度は、上前腸骨棘と膝蓋骨中心を結ぶ線と内・外果中央と膝蓋骨中心を結ぶ線のなす角度を180度から引いた角度を膝関節外反角度とし、Pre land時膝関節外反角度(以下PL外反角度)、Land時膝関節外反角度(以下Land外反角度)を計測した。撮影した大腿骨前捻角、骨盤傾斜角度、PL外反角度、Land外反角度における静止画像は全てパーソナルコンピューターに取り込み、二次元動作解析ソフトImageJを用いて計測した。統計処理は、Land外反角度と大腿骨前捻角、Land外反角度と骨盤傾斜角度の関係に対してはスピアマン順位相関係数を使用し、PL外反角度と大腿骨前捻角、PL外反角度と骨盤傾斜角度の関係性に対してはピアソンの相関係数を使用し、有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、高木病院倫理委員会により承認された。対象者には研究目的、研究方法について十分に説明をし、同意を得た上で行った。【結果】PL外反角度においては、大腿骨前捻角、骨盤傾斜角度ともに相関は認められなかった。Land外反角度においては、骨盤傾斜角度とは相関が認められなかったが、大腿骨前捻角とは正の相関が認められた(r=0.7 p=0.01)。【考察】大腿骨前捻角が非予測的課題における着地時の膝関節外反角度に対して影響を及ぼすことが示唆された。実際のスポーツ場面に近い非予測的課題において、大腿骨前捻角が大きい場合は、非接触型ACL損傷における受傷肢位である膝関節外反を誘発することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】先行研究では、複合動作における膝関節外反角度と身体アライメントとの関係性は不明確であった。本研究結果により、大腿骨前捻角が非予測的課題における着地時の膝関節外反角度に対して影響を及ぼすことが示唆された。これは、非接触型ACL損傷発生機序の解明、損傷予防において有用である。