抄録
【はじめに、目的】腰椎分離症は体幹伸展と回旋の反復動作による疲労骨折とされており,成長期スポーツ障害の代表的疾患である.腰椎分離症のリスクファクターに関して筋タイトネスなどの報告がされているが,一定の見解に至っていない.諸家により成長期のバランス機能については個人差が大きいことが報告されているが,腰椎分離症のバランス機能特性についての報告は見られない.バランス機能の測定では,望月らの姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability;以下IPS)があり,静的・動的バランスの安定度を表す指標とされている.そこで本研究では,IPSを用いた重心動揺測定と姿勢戦略,筋タイトネスを分析することで,成長期腰椎分離症患者のバランス機能特性を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は,分離群を運動部に所属している13-17歳までの腰椎分離症を有する者16名(年齢14.8±1.4歳, 身長164.5±5.4cm,体重55.2±7.3kg,足長26.0±0.8cm),コントロール群を腰椎分離症の既往がなく,腰椎・下肢に障害がない者11名(年齢14.3±1.2歳,身長163.5±7.4cm,体重53.8±12.6kg,足長53.8±12.6cm)とした.重心動揺測定には, 重心動揺計(Medicaptures社製,Win-pod)を用いた.基本姿勢を両脚立位とし,両上肢を前方で組ませ,両踵中央部を10cm離し,足角10度とした.まず静的バランスを静止立位にて測定した.動的バランスはIPSの測定方法に準じ,安定して姿勢保持が可能な範囲で前後右左の4方向に重心移動した姿勢を保持してもらい, 測定時間10秒、試行回数3回として測定した.各測定につき,総軌跡長,外周面積,矩形面積を計測し,3回の平均値を求めた.重心動揺面積の代表値は各方向に静止立位を含めた5方向の矩形面積の平均値とし,安定域面積の代表値は各方向への重心移動距離を求め,前後径・左右径を乗じた面積とした.IPSは重心動揺面積と安定域面積の和を取り,重心動揺面積で除した値の対数を求めた.また,対象者に10個のランドマークを貼付し, ハイスピードカメラ(CASIO EX-FC150)2台を対象者から右側及び後側へ3m,高さ1mの所に設置し,重心動揺測定時の姿勢を撮影した.得られた画像からSilicon COACH pro ver.7(Silicon COACH社製)を用いて,各測定姿勢時の腰椎伸展・側屈角度,股関節・膝関節の屈曲角度,足関節の背屈角度を測定した.筋タイトネス評価として, 関節可動域(股関節屈曲・伸展),Finger-Floor Distance,Heal-Buttock Distance,Straight Leg Raisingを測定した.統計処理にはSPSS ver.17.0 for Windowsを使用し, 重心動揺測定における各指標および関節角度の群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,重心動揺測定の各指標と関節角度間の相関関係にはSpearmanの順位相関係数を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者及び保護者に目的及び内容,対象者の有する権利について口頭にて十分説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】矩形面積(前方) は分離群364.89±127.70mm²,コントロール群201.62±136.55mm²であり,分離群が有意に大きかった (p<0.01).その他の指標には有意差は認められなかった.相関関係において分離群の重心動揺面積(前方)と腰椎伸展角度(r=.650,p<0.01)の間に有意な正の相関,コントロール群の矩形面積(前方)と腰椎伸展角度(r=-.610,p<0.05)の間に有意な負の相関が認められた.【考察】矩形面積(前方)において分離群とコントロール群の間に有意差が認められた.一方,IPSや筋タイトネスに関して分離群とコントロール群の間に有意差を認めなかったため,今回の結果への平衡機能,筋タイトネスの関与は少ないと考えられる.また分離群において矩形面積(前方)と腰椎伸展角の間に有意な正の相関関係が認められ,コントロール群において有意な負の相関が認められた.これより,前方重心位での姿勢保持の際,分離群では姿勢戦略として腰椎伸展を強めていることが分かった.腰椎分離症は腰椎伸展・回旋の反復による腰椎関節突起間部への応力集中により生じるとされていることから,今回,分離群にみられた姿勢戦略は腰椎分離症発症に影響を与える可能性が示唆された.また分離群で腰椎伸展を用いた姿勢戦略となる原因を明らかにするために,矩形面積(前方)において分離群が有意に大きくなった原因を明らかにしていくことが必要と考える.諸家により腰椎分離症者患者では体幹保持機能に障害が生じると報告されていることから,体幹機能低下が関与していることが考えられる.よって,今後前方へのバランス制御へ与える影響を体幹保持機能などから明らかにしていきたいと考える.【理学療法学研究としての意義】腰椎分離症患者におけるバランス機能特性として,前方重心位での姿勢保持のための姿勢戦略として腰椎伸展が大きくなることが明らかになり,腰椎分離症のリスクファクターの一因となることを示唆するものとして意義があると考える.