理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-40
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ポスター発表
炎症性疼痛ラットの腰髄後角におけるTNF-α誘導性ASK1-JNK1 経路の活性化
用皆 正文榊間 春利米 和徳
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抄録
【はじめに、目的】変形性関節症、関節リウマチ等の炎症性疾患は、通常では疼痛を感じない程度の刺激によって生じる疼痛であるアロディニア (Allodynia) を来すことがある。アロディニアは、痛覚過敏 (Hyperalgesia) と比較して、進行性かつ持続性である為、罹病者の日常・社会生活の支障やQOL (Quality of life) 低下をもたらすだけでなく、理学療法を実施、進行する際の阻害因子となる。近年、運動器炎症性疾患に伴うアロディニアの原因の一つに、脊髄内反応性アストロサイトにおける細胞内シグナル伝達物質であるMAPK (Mitogen-activated protein kinase;分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ) の一つ、JNK1 (c-Jun N-terminal kinase 1;c-Jun N末端キナーゼ 1) の関与が示唆されている。しかし、脊髄内反応性アストロサイトにおけるJNK1 の上流に位置するシグナル伝達物質とその誘発物質は、特定されていない。本研究の目的は、持続性の炎症性疼痛による腰髄後角内TNF-α誘導性pASK1-JNK1 経路の活性化と、反応性アストロサイトとの共発現、アロディニアとの関連性について検討することである。【方法】実験動物には雄性Wistar系ラットの9 週齢の無処置群3 匹 (対照群) 、完全フロイントアジュバント (Complete Freund’s Adjuvant;CFA) 注入後7 日群 (CFA7 日群) 、CFA注入後17 日群 (CFA17 日群) 、CFA注入後28 日群 (CFA28日群) を各5 匹使用した。ラットは、CFA注入前、片側後肢足底へCFA (ヒト型結核死菌、1mg/mL) 0.15mL注入7,17,28 日後にペントバルビタールナトリウムを腹腔内過剰投与により安楽死させ、ヘパリン加生理食塩水で脱血灌流後、胸腰髄移行部を摘出し、4%パラホルムアルデヒド/0.1Mリン酸緩衝液pH7.4 に一晩侵漬固定した。その後、組織は、パラフィン包埋後、第5 腰髄部連続横断切片 (厚さ:5 μm) を作製し、形態学的・免疫組織学的観察を実施した。また、両後肢足部の足部厚足底、運動学的評価、痛覚反応閾値検査も定期的に実施した。統計処理は、各群間比較の為に、一元配置分散分析後、多重比較法を実施した。また、各群内比較の為に、対応のある二標本t 検定を実施した。さらに、TNF-α,pASK1,pJNK1,GFAP陽性領域割合、疼痛反応閾値との関連性を検証する為に、全群を対象に、Pearsonの相関係数を実施した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は鹿児島大学医学部動物実験委員会の承認 (承認番号:第M11005 号) を得て、実施された研究である。【結果】片側足部CFA誘発炎症性疼痛モデルの腰髄両側後角内のTNF-αとpASK1、pJNK1 の陽性領域割合がCFA注入7 日後に有意に増加していた。pASK1、pJNK1 は、反応性アストロサイト、神経細胞、オリゴデンドロサイト内に共発現していた。TNF-αとpASK1、pASK1 とpJNK1、pJNK1 とGFAP陽性領域割合、GFAP陽性領域割合と疼痛反応閾値が有意に相関していた。【考察】片側足部CFA誘発炎症性疼痛モデルの腰髄両側後角内のTNF-αとpASK1、pJNK1 の陽性領域割合がCFA注入7 日後に有意に増加していた。また、TNF-αとpASK1、pASK1 とpJNK1、pJNK1 とGFAP陽性領域割合が有意に相関すること、pASK1 とpJNK1 が反応性アストロサイト内に共発現していたことから、末梢炎症に伴い、腰髄後角の反応性アストロサイト内のTNF-α誘導性ASK1-JNK1 経路が活性化されていることが推測された。GFAPの陽性領域割合と疼痛反応閾値も有意に相関していることから、TNF-α誘導性ASK1-JNK1 経路がアロディニアに関連していることも推測された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、炎症性疼痛モデルにおけるアロディニアが腰髄後角の反応性アストロサイト内のTNF-α誘導性ASK1-JNK1 経路に関与している可能性を示した。このことは、炎症性疼痛に対する理学療法有効性の科学的根拠と効果判定に貢献するものと考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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