理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-40
会議情報

ポスター発表
ラット膝関節炎モデルに対する患部の不動ならびに低強度の筋収縮運動が痛みや腫脹におよぼす影響
寺中 香近藤 康隆片岡 英樹佐々部 陵濱上 陽平関野 有紀坂本 淳哉中野 治郞沖田 実
著者情報
キーワード: 関節炎, 筋収縮運動, 痛み
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】急性の関節炎に対しては,患部の安静や薬物療法により炎症の沈静化を図るのが一般的である.しかし,近年,四肢の一部の不動が慢性痛の危険因子になると指摘されており,急性期における患部の必要以上の安静は慢性痛発生に影響をおよぼすと予想される.一方,変形性膝関節症患者を対象としたランダム化比較対照試験の結果では,筋力増強効果を認めない低強度の大腿四頭筋運動でも疼痛軽減効果をもたらすとされている.しかし,関節炎発症直後からの筋収縮運動の治療介入効果については明らかになっていない.そこで,本研究ではラット膝関節炎の発症直後から患部を不動状態とする場合と低強度の筋収縮運動を実施する場合をシミュレーションし,痛みや腫脹におよぼす影響を検討した.【方法】8 週齢のWistar系雄性ラット21 匹を用い,1)3%カラゲニン・カオリン混合液300 μlを右膝関節に注入し,関節炎を惹起させる関節炎群(n=5),2)関節炎の惹起後,右膝関節をギプスで不動化する不動群(n=5),3)関節炎の惹起後,低強度の筋収縮運動を実施する運動群(n=6),4) 疑似処置として生理食塩水300 μlを右膝関節に注入する対照群 (n=5) に振り分けた.そして,不動群に対しては起炎剤投与翌日から右膝関節を最大伸展位で4 週間不動化し,運動群に対しては,起炎剤投与翌日から膝関節伸展運動を20 分間(週6 回)実施した.具体的には,麻酔下で低周波治療器トリオ300(伊藤超短波製)を使用し,大腿四頭筋を電気刺激することで膝関節伸展運動を誘発させた.なお,実験終了後は筋収縮運動による筋肥大効果を確認するため,大腿直筋の凍結横断切片をH&E染色し,各群の筋線維直径を比較した.一方,各群に対しては起炎剤(生理食塩水)投与の前日ならびに1・7・14・21・28 日目に右側膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに遠隔部である右足底の痛覚閾値を評価した.方法としては,膝関節の横径をノギスで測定することで腫脹を評価し,プッシュプルゲージにて膝関節外側裂隙部に圧刺激を加え,後肢の逃避反応が出現する荷重量を測定することで圧痛閾値を評価した.また,右足底の痛覚閾値は4・15gのvon Frey filament(VFF)を用いてそれぞれ10 回刺激し,その際の痛み関連行動の出現回数を測定することで評価した.【倫理的配慮、説明と同意】今回の実験は,長崎大学動物実験指針に基づき長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】大腿直筋の筋線維直径は関節炎群と運動群の間に有意差は認められなかった.腫脹に関しては,関節炎群,不動群,運動群の3 群は起炎剤投与1 日目をピークに14 日目まで対照群より有意に増加していたが,実験期間を通して3 群間に有意差を認めなかった.膝関節の圧痛閾値に関しては,関節炎群,不動群,運動群とも起炎剤投与1 日目において対照群より有意に低下し,3 群間に有意差を認めなかったが,運動群では7 日目から関節炎群,不動群より有意に上昇し,21 日目以降は対照群との有意差も認めなかった.足底の痛覚閾値は4・15gのVFFともほぼ同様の結果で,関節炎群は起炎剤投与1 日目から有意に低下し,これは28 日目まで持続した.また,不動群は起炎剤投与1 日目から28 日目まで対照群より有意に低下し,さらに,21 日目以降では,関節炎群のそれより有意に低下していた.一方,運動群は起炎剤投与1・7 日目までは対照群より有意に低下していたが,それ以降は有意差を認めず,関節炎群,不動群よりも有意に上昇していた.【考察】関節炎を惹起した3 群における起炎剤投与1 日目の評価結果はいずれも有意差を認めず,これは同程度の関節炎が発症していることを裏付けている.しかし,関節炎群と不動群は遠隔部である足底の痛覚閾値の低下が約1 ヶ月持続していることから慢性痛に発展している可能性が推測され,不動群においてはその兆候が顕著であることから,関節炎発症直後からの患部の不動は慢性痛発生に大きく影響すると推察される.一方,運動群においては患部の圧痛閾値のみならず,足底の痛覚閾値の低下が関節炎群や不動群と比べ早期に回復しており,この結果は筋収縮運動による疼痛軽減効果ではないかと考えられる.そして,大腿直筋の筋線維直径の結果からは,筋収縮運動による筋肥大効果は認められておらず,低強度での運動を再現できていると思われる.つまり,関節炎発症直後からの低強度の筋収縮運動は慢性痛の発生予防に好影響をもたらす可能性を示唆している.【理学療法学研究としての意義】本研究は,関節炎発症直後より患部を不動状態に曝すと慢性痛に発展すること,逆に,低強度の筋収縮運動を行うと患部の痛みのみならず,遠隔部における慢性痛の発生を予防できる可能性を示唆している.つまり,本研究の成果は炎症後の安静による弊害と運動療法の有効性を示した意義ある基礎研究と考える.

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top