理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-40
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ポスター発表
アジュバント膝関節炎により生じる膝関節屈曲拘縮と膝関節周囲筋の組織形態学的変化
金口 瑛典小澤 淳也山岡 薫
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抄録
【はじめに、目的】膝関節疾患の多くは関節内に炎症や病変を有するにもかかわらず、膝関節周囲筋にも機能的・形態的変化が生じる。しかし、膝関節内炎症に続発して生じる関節可動域制限や、関節周囲筋の組織形態学的変化については、関節不動や運動麻痺のモデルと異なりほとんど報告がない。本研究ではラット関節炎モデルを用いて、膝関節可動域および膝関節周囲筋の組織学的変化について調査することで、膝関節炎の持続に伴う関節周囲筋への影響や、関節炎症に誘導される関節拘縮の要因を探ることを目的とした。【方法】雄性Wistar ratを使用し、対照群 (n = 5)、2 週間の関節炎群 (2wCFA群、n = 6)、4 週間の関節炎群 (4wCFA群、n = 5)の3 群に分けた。2wCFA群は、炎症を惹起するため右膝関節腔内にComplete Freund's Adjuvant (CFA) を0.1 ml注入後、2 週間飼育した。4wkCFA群は、CFAを右膝に0.1 ml注入し、2 週間後に再び同量注入して2 週間飼育した。対照群は、右膝に生理食塩水を0.1 ml注入し、2 週間飼育した。実験終了時に全てのラットが12 週齢となるようにした。右後肢の皮膚を切除した後、麻酔下にて膝関節伸展方向に14.60 N・mmのモーメントをかけた状態で、三次元動作解析装置を用いて大転子、膝関節外側裂隙、外果のなす角度を測定し、膝関節最大伸展角度 (伸展ROM) とした。さらに、膝関節屈筋を切除した後、同様の方法で再度伸展ROMを測定した。その後、右後肢から大腿直筋と半腱様筋を採取し、凍結横断切片を作成した。大腿直筋にはヘマトキシリン・エオジン染色、半腱様筋には抗slow myosin抗体を用いた免疫組織化学を行った。それぞれの筋の深層の顕微鏡像を写真撮影し、画像解析ソフトを用いて筋線維横断面積の測定を行った。統計解析には一元配置分散分析とその後の多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,広島国際大学動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】伸展ROMについて、対照群で141 ± 10°に対し、2wCFA群で113 ± 8°(対照群の80%)、4wCFA群で112 ± 13°(79%)とそれぞれ有意な屈曲拘縮が生じた。膝屈筋を切除して筋性要因を除去した後の伸展ROMは、対照群で171 ± 8°に対し、2wCFA群で142 ± 18°(83%)、4wCFA群で134 ± 6°(79%) とそれぞれ有意な伸展制限が残存した。大腿直筋の筋線維横断面積は、対照群で2366 ± 568 μm 2 に対し、2wCFA群で1953 ± 327 μm 2 (83%) 、4wCFA群で1703 ± 78 μm 2 (72%、 P < 0.05) と、炎症期間に依存して筋萎縮が進行した。一方、半腱様筋では、対照群で2171 ± 531 μm 2 に対し、2wCFA群で2288 ± 397 μm2 (105%) 、4wCFA群で2091 ± 397 μm2 (96%) といずれも差は認められなかった。しかし、筋線維タイプ別の比較では、slow myosin陽性線維は対照群で1322 ± 152 μm 2 に対し、2wCFA群で1105 ± 189 μm2 (84%) 、4wCFA群で1005 ± 133 μm2 (76%、 P < 0.05) と炎症期間依存的に萎縮した。一方、slow myosin陰性線維は、対照群で2335 ± 605 μm 2 に対し、2wCFA群で2476 ± 470 μm2 (106%) 、4wCFA群で2218 ± 424 μm2 (95%) といずれの群間にも有意差はなかった。【考察】ラットアジュバント膝関節炎モデルにおいて屈曲拘縮を認めた。関節拘縮の主な責任病巣として、筋と筋以外の関節構成体が考えられる。CFA群では筋切断後も伸展ROM制限が残存したことから、関節構成体による屈曲拘縮が生じたことが明らかとなった。また、いずれの群においても屈筋切除により約30°の伸展ROM拡大がみられた。このことは、関節構成体ではなく筋が先行して伸展ROMを制限することを示唆する。CFA群で筋切除前の伸展ROM制限が認められたことから、膝屈筋も伸展ROM制限に寄与することが推測された。大腿直筋ではCFA投与により萎縮が生じた一方で、半腱様筋では萎縮が生じなかった。さらに、半腱様筋で観察されたslow myosin陽性線維の選択的萎縮は、脊髄切断後の痙縮筋の特徴的所見であることから、CFA投与群の半腱様筋では不随意な筋活動が生じ、萎縮が抑制された可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝関節における炎症や疼痛が、屈曲拘縮および関節周囲筋の筋特異的な組織学的変化を引き起こすことが示された。関節の消炎・鎮痛を目的とした理学療法は、単に症状を抑制するだけでなく、続発する機能障害を予防する上でも重要と考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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