理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-52
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ポスター発表
人工股関節と人工膝関節が磁気式位置姿勢計測装置の計測精度に与える影響
吉村 淳子大場 潤一郎林 健志吉田 直樹
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抄録

【はじめに、目的】人工股関節全置換術(THA)後の脱臼は、股関節屈曲・内転・内旋や、伸展・外旋の組み合わせにより起こることが多いとされている。これは、THA後の脱臼が1 つの基本平面内運動で起こるのではなく、関節が3 次元的に動く中で起こりやすいということ意味している。そのため、股関節運動は基本平面に分けた計測だけでは不十分であり、3 次元の正確な計測が必要である。3 次元動作計測では光学式装置が多く使用されているが、マーカーがカメラから隠れると計測ができなくなる。一方、磁気式計測装置はソースコイル(ソース)が発生させる磁場の中での、センサーコイル(センサ)の位置と姿勢を計測するため、衣服等でセンサが隠れても計測が可能である。しかし、磁気を利用するため、金属が近くにあると計測精度に影響がでるという欠点がある。人工関節の素材は、強度の問題等でコバルトクロム(Co-Cr)合金などの金属が使用されることが多い。Co-Cr合金の材料の1 つであるコバルトは磁性体であり、磁気式計測装置での計測精度に影響を与える可能性がある。そこで本研究では、THA後の股関節運動計測に向け、人工関節自体が磁気式計測装置の計測精度に与える影響を計測する事を目的とした。また、人工関節が磁気式計測装置に影響を与える場合、センサ貼付位置を人工関節から離すことで影響が小さくなるのかどうかも検証した。【方法】人工股関節(カッコ内はサイズ:mm)の素材は、カップとステムはチタン合金、骨頭(直径36)はCo-Cr合金、ライナーはポリエチレン、人工膝関節の大腿骨コンポーネント(65 × 62 × 60)と脛骨コンポーネント(71 × 41 × 40)はCo-Cr合金、膝蓋骨コンポーネントとサーフェイスはポリエチレンであった。磁気式計測装置(PATRIOT,Polhemus社)の両コイルは、床下金属の影響を避けるため床から十分離した位置(約1m)に設置し、コイル間距離は15cm、30cmとした。コイル間に人工関節を置き、センサの位置と角度を計測した。コイル間15cmでは人工関節をコイル間の中央に置いた。30cmでは、15cmの設定から、1)ソースと人工関節は固定しセンサを移動、2)センサと人工関節は固定しソースを移動、3)人工関節は中央に固定し両コイルを移動の3 方法でコイルを移動させた。計測手順は何も置いていない状態(ベース条件)5 秒、人工関節を置いた状態(人工関節条件)10 秒、ベース条件5 秒の順で、サンプリング周波数60Hzで計測した。解析方法は、位置と角度の計測精度を人工関節条件とベース条件とで比較した。位置と角度の計測精度は、それぞれ系統誤差と確立誤差比に分けて評価した。系統誤差は各条件の計測値平均の差、確立誤差比は各条件の計測値の標準偏差の比として求めた。 位置、角度は3 自由度のうち、それぞれの最大誤差を評価対象とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は関西リハビリテーション病院倫理審査委員会の承認を得て行った。【結果】各人工関節の計測結果をカッコ内に位置系統誤差(mm)、角度系統誤差(度)、位置確立誤差比、角度確立誤差比の順に示す。人工股関節は(5.5、3.8、1.6、1.2)であった。人工股関節はコイル間距離による差はほとんど無く、15cm、30cmの中での最大誤差を示した。人工膝関節はコイル間距離15cmで(0.0、7.1、4.3、1.2)、30cmでは(0.2、1.9、1.2、1.1)であった。【考察】今回の人工股関節計測時の誤差は、数ミリ、数度の精度を要求される計測では問題となるだろう。しかし、大きな範囲の動きを計測する場合等では、センサ貼付時に生じる位置や角度の許容誤差と同程度の誤差と考えられる。また、人工膝関節では、センサとの距離が近い時には人工股関節に比べ大きな角度誤差となった。しかし、センサを人工膝関節から離すことで人工股関節と同程度の誤差となった。THAと人工膝関節全置換術の両方を施行された者では、センサ貼付位置を膝関節から離す等の工夫により精度を損なわない計測が可能になると思われる。しかし、磁気式計測装置や人工関節はメーカーにより多様である。今回は磁気式計測装置、人工関節とも1 種類しか使用しておらず、全ての磁気式計測装置や人工関節に当てはまる結果とは言えない。だが、今回使用した骨頭や大腿・脛骨コンポーネントは比較的大きく、人工関節が磁気式計測装置に与える影響を判断する上での一つの目安になると思われる。【理学療法学研究としての意義】人工関節が磁気式計測装置の計測精度に与える影響および、センサ貼付位置の工夫により精度を損なわない計測が可能になることがわかった。今後、磁気式計測装置を使用しTHA後の股関節の様々な運動を計測することで、股関節の正確な動きがわかり、脱臼予防の動作指導等に利用できると思われる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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