理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-52
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ポスター発表
新型三次元角度計を使用した膝関節回旋角度測定の検討
折田 直哉雁瀬 明平田 和彦島田 昇日當 泰彦河江 敏広對東 俊介松木 良介西川 裕一福原 幸樹植田 一幸伊藤 義広木村 浩彰越智 光夫
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抄録

【はじめに、目的】膝前十字靭帯(ACL)損傷はスポーツ中に頻繁に生じる外傷の一つである.ACL損傷によって膝関節には前後および回旋方向の不安定性を生じる.ACL損傷後の膝関節機能評価において,前後不安定性に関しては,定量化する方法がすでに確立されているが,回旋不安定性について定量化できる機器および客観的評価方法は確立されていない.今回我々が用いた新型三次元角度計は,3 軸の角速度センサーと3 軸の加速度センサーより得られた角度,角速度,加速度の時系列データを取得・表示する測定器である.本研究では,新型三次元角度計を用いて,膝関節の回旋運動中における回旋角度測定の定量化が可能であるかを検討することを目的とした.【方法】対象対象は下肢に既往のない健常男性3 名(年齢:21.3 ± 0.6(平均±標準偏差)歳,身長165.7 ± 1.2cm,体重61.3 ± 5.1kg)および女性3 名(年齢:21.7 ± 0.6 歳,身長161.0 ± 3.0cm,体重49.7 ± 0.6kg)の左膝関節とした.使用機器測定にはBIODEX System 3(BIODEX社製),三次元角度計 (ジースポート社製,Pocket-IMU2)を用いた.測定プロトコル対象をBIODEX上座位にて,左膝関節30deg屈曲位となるように大腿および足部を固定し,膝関節を他動的に最大内旋および外旋運動を行った.先行研究に従い,測定時の角速度は5deg/s,回転にかかるトルクは7 から15Nmとした.その際,大腿部前面(膝蓋骨上10cm),下腿部前面(脛骨前面)には1 個ずつ三次元角度計センサーを設置した.また,足関節による代償運動を減少させるために全ての対象にはシューホーンブレース(中村ブレイス社製)を装着した.データ解析BIODEXにより測定される回旋角度および,三次元角度計各センサーの相対的位置偏位による回旋角度を測定した.得られた最大内旋角度と最大外旋角度の和を膝関節総回旋角度とした.測定は,各被験者において3 回ずつ行い,解析には3 回の平均値を用いた.また,検者内信頼性を確認するために,男性3 名において1 週間後に同じ検者が同様の測定を行い,ICC(1,2)により級内相関係数を検討した.統計処理にはPASW statistics 18 を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則った広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て行った.対象は自らの意思に基づき本研究に参加し,測定前に研究代表者が説明文書に基づいて研究内容を説明し,同意文書への署名にて同意を得た.【結果】新型三次元角度計による測定結果について,ICC(1,2)による級内相関係数rは,総回旋角度においてr=0.94 であり,桑原(1993)の基準では優秀であることが示された.BIODEXによる総回旋角度の平均値(deg)は,男性87.7 ± 9.9,女性102.7 ± 25.7 であった.三次元角度計による測定結果は,男性A:42.6 ± 0.3,B:49.8 ± 0.7,C:30.6 ± 0.0,女性D:53.1 ± 3.4,E:39.5 ± 0.1,F:43.2 ± 0.4 であった.全対象において,膝関節総回旋角度はBIODEXより三次元角度計によって測定されるものの方が明らかに小さかった.【考察】近年,ACL再建術後の長期成績においては関節症変化が起こることが報告されている.それに対して,回旋安定性を含めた正常な膝関節運動の回復が必要とされており,適切な再建術の術式については依然として議論が続いている.ACL損傷後の競技復帰の指標や再建靭帯の機能評価として,回旋安定性に関して定量化する方法を早急に確立することが求められる.回旋角度を測定した先行研究は少なく,また回旋トルクの大きさや膝関節屈曲角度などの統一がされておらず,比較は困難であった.それらは,足部または脛骨に貼付した電磁気センサーにより回旋角度を測定しており.電磁気センサーは磁場環境の影響を受けるため,計測環境に設定が難しいことが知られている.本研究で用いた新型三次元角度計は,携帯性・操作性に優れ,場所による制限もない.さらに身体の各部に取り付けることによって簡単に測定可能である.今回BIODEXと三次元角度計を用いたことで,BIODEXにより測定される場合と比べ,足関節による運動代償を補正した状態にて,大腿部に対する脛骨の回旋角度をより正確に計測することが可能であったと考える.また本研究の測定方法は,ICCにおける結果より検者内信頼性および再現性の高い方法であることが示された.今回は静的な環境において測定を行ったが,センサーを確実に固定し,大腿部や下腿部の軟部組織による誤差を軽減する方法を見いだすことができれば,歩行などの動作時の測定も可能となると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究では,膝関節の機能評価の一つとして,新たな膝関節回旋角度の測定方法を示した.ACL再建術後などのリハビリテーションを実施する際に,再建靭帯機能の評価において大きな一助となることが期待できる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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