抄録
【はじめに、目的】脳性まひ児における理学療法の目的として、筋緊張亢進による運動機能制限は主要素となることは多い。そのため、筋緊張を評価し、治療手段・効果判定・理学療法プログラムの検討を行う際、より信頼性ある評価結果が有効な治療を提供する上で重要であると考える。従来は、他動運動での抵抗感をスケールで表して評価しているが、評価者の主観であるため、経験年数や主たる対象者の疾患でもその抵抗感を数値化する際にばらつきが大きい。今回、筋緊張を定量的に評価する方法として誘発筋電図を用いた。【方法】被験者は、マット上で安静腹臥位となり、膝関節から足部までを露出した。この段階で、枕やタオル、ベルト固定などで姿勢の調整は行わず、楽な腹臥位姿勢でいるよう口頭指示を行った。その後足関節背屈の他動的な伸張性をModified Ashworth Scaleにて測定した。下腿後面に、アース電極・検査電極を貼付する。膝関節後面より電気刺激を行い、痛みの出現しない程度で刺激強度を徐々に増大させ、誘発筋電図の波形を記録する(刺激パラメーター:パルス周波数0.5Hz;パルス幅20ms;二相パルス;20回)。記録されたH波・M波の波形から潜時・振幅を同定した。【倫理的配慮、説明と同意】保護者同席のものと、研究に関する説明を行い、同意を得てからマットを用意した個室にて検査を実施した。信濃医療福祉センター(信医福倫23第7号)・信州大学医学部保健学科倫理審査委員会(受付番号1897)の承認を得て実施した。【結果】Modified Ashworth ScaleとH波・M波の潜時・振幅を相関分析した結果、1群と2群の間で、H波潜時・H波振幅、M波潜時で負の相関がみられた。1群と3群の間では、H波振幅、M波潜時で負の相関がみられた。2群と4群の間ではH波潜時で正の相関がみられた。それ以外の2群間・3群間・4群間での相関関係は低かった。【考察】先行研究でもModified Ashworth Scaleと誘発筋電図によるH波・M波のデータには相関関係が低い13)とされるものが多い。それは、Modified Ashworth Scaleと電気生理学的評価法が現わしているものが、あまりに異なるためであろう。Modified Ashworth Scale が筋緊張の評価として妥当性・信頼性が低さは常々指摘されており、本研究においても同様に信頼性には疑問がもたれる。しかしH波・M波のデータがより優れており、Modified Ashworth Scaleが劣っているという事ではないと考える。H波・M波のデータは反射要素を含む筋活動を定量的に評価できるが、その検査結果はあくまで、その個人の身体的情報の1つであり、そのデータをどのように解釈するか、臨床推論の中で、参考となる情報源の1つにすぎない。ただこれまでは、その情報源がほぼModified Ashworth Scaleのみであった。前述したように、多様な要因によって時々刻々と変化しうる筋緊張をModified Ashworth Scaleという尺度のみで評価し、その情報源でしか判断してこなかった。相関性の低いこれらのデータは、各々が持つ性質を正確に判断することでデータを活かす事に繋がると考える。【理学療法学研究としての意義】侵襲性のあるH波・M波のデータを敢えてとる必要性として、より有効なアプローチを検討するための情報源が増えることは大きく影響する。