抄録
【はじめに、目的】重症心身障害児(以下重症児)の理学療法では、姿勢保持へのアプローチは身体機能の維持向上やQOL保障に重要である。今までも腹臥位など前もたれ姿勢の有効性を示した報告はあるが、これらの姿勢が快適であるかは明らかではない。そこで、重症児が日常的にとる姿勢の快適性を自律神経活動の特徴から明らかにすることを目的に研究を行なった。【方法】脳性まひ児19名(男:女=13:6)13±3.4歳、痙直型:不随意型(アテトーゼおよび失調)=11:8名、Gross Motor Function Classification System(以下GMFCS)I:Ⅱ:Ⅲ:Ⅳ:Ⅴ=1:1:1:2:14名を対象とした。仰臥位、腹臥位、前傾座位を各15分間保持し、心拍のR-R間隔を周波数解析し得た高周波成分(HFms²)を副交感神経活動の指標とし低周波成分(LFms²)をHFで除したLF/HFを交感神経活動の指標としてPOLAR-8000Xで測定、脳血流量(HEG:200×酸化ヘモグロビン/還元ヘモグロビン)をMediTECK社製nIR-HEGにて、測定装置を左前頭前野(FP1:脳波測定国際10-20法による)にあて測定した。また、5分毎に心拍数(bpm)、血圧(mmHg) 、SPO2 (%)を、各姿勢最後に唾液アミラーゼ(kiu/l)をニプロ社製唾液アミラーゼモニターでストレス指標として測定した。測定は音声55dB程度、室温26℃程度、湿度50%程度にモニターし環境統制したエアコンの効いた波音を流した部屋で行った。全ての指標で(1)全対象の姿勢間三群比較(2)30分以上/日の立位体験あり(以下立位群)・なし(以下不立位群)間の二群比較(3)床上で移動が可能なGMFCSI~Ⅳ(以下I-Ⅳ群)と難しいGMFCSⅤ(以下Ⅴ群)間の二群比較(4)I-Ⅳ群とⅤ群での姿勢間三群比較(5)痙直型と不随意型での二群比較を行った。統計処理は二群比較ではMan Whitney検定、三群比較ではFriedman検定-Scheffe多重比較を用い有意水準5%で検討した。【倫理的配慮】鈴鹿医療科学大学倫理審査委員会の承認の下、対象者と保護者には十分な説明を行い、文書による同意を得た。【結果】 環境統制の結果は、音響環境53.52±7.52dB、室温26.09±0.62℃、湿度47.86±1.34%だった。(1)全対象における姿勢間比較では、血圧のみ腹臥位<前傾座位(p<.05)で、心拍変動、心拍数、SPO2、アミラーゼで差はなかった。(2)立位-不立位群比較では、仰臥位でHFは立位群(1060.5±3793.9)>不立位群(173.1±261.1)、LF/HFは立位群(1.4±2.4)<不立位群(2.7±1.7)、心拍数は立位群(87.7±16.6)<不立位群(106.3±17.4)だった(p<.05)。アミラーゼに差はなかった。(3)重症度では仰臥位でHFがI-Ⅳ群(794.2±403.0)>Ⅴ群(711.9±1814.4)、LF/HFがI-Ⅳ群(1.0±0.3)<Ⅴ群(2.2±1.6)、心拍数がI-Ⅳ群(83.0±13.7)<Ⅴ群(101.6±17.0)、HEGがI-Ⅳ群(196.7±2.0)>Ⅴ群(174.7±25.3)、SPO2がI-Ⅳ群(98.9±0.9)>Ⅴ(97.1±1.9)で(すべてp<.05)、前傾座位と腹臥位で差はなかった。アミラーゼは、仰臥位でI-Ⅳ群(29.4±15.5)<Ⅴ群(107.4±94.1)だった(p<.05)。(4)重症度別の姿勢間のLF/HFは、I-Ⅳ群で仰臥位(1.0±1.6)<腹臥位(2.4±0.9)だった(p<.05)。(5)前傾座位でSPO2は、痙直型(98.4±1.0)>不随意型(96.3±2.7)であった(p<.05)。【考察】立位群では、仰臥位で副交感神経が働き心拍数も低値で、自律神経の安定が得られていると考えられた。しかし不立位群では、休息姿勢と思われる仰臥位でも交感神経が働き心拍数が高まり、前傾座位や腹臥位では有意差はないがHEGの増加傾向がみられた。HEGの増加から考えると、腹臥位は交感神経を活性し脳活動を促すとも考えられるが、心拍増加など快適とはいえず、立位をとってない児ではこれらの姿勢は注意を要する可能性がある。運動障害が重度だと、仰臥位で交感神経の働きが高まり心拍数の増加がみられたがHEGは減少し、唾液アミラーゼモニターでも「61Kiu/l以上でかなりストレスあり」とされ、重症児は仰臥位でもストレスを感じている可能性がある。運動障害が軽いと、姿勢変化に対して自律神経指標であるHFやLF/HFが有意差を示し、姿勢変化に対して自律神経系が調整をしているとも考えられる。また不随意型では前傾座位で呼吸器指標であるSPO2が低下し、日常的な姿勢管理上の注意の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から、重症児では姿勢変化に対する自律神経系調整機能に弱さがある可能性があり、さらに検討すべきであることが示された。