抄録
【はじめに、目的】急性心筋梗塞(AMI)の機械的合併症は,左室自由壁破裂,心室中隔穿孔,僧帽弁乳頭筋断裂があり外科治療が必要となるが,死亡率は高く予後不良である.また術後管理は難渋しADLの回復も不良である.今回の目的は,死亡例を含む術後患者を歩行自立の可否から心臓リハビリテーションの経過ついて検討することである.【方法】対象は2006年7月から2012年7月の間に,AMI,亜急性心筋梗塞で機械的合併症を発症し外科的治療を行った24例である.疾患別でFWL12例,VSP10例,PMR2例であり,男性10例,女性14例,平均年齢79.0±8.2歳である.退院までに歩行自立が可能の場合を自立群9例,不可能の場合を不可群15例と定義し2群に分けた.調査項目は,術前情報は年齢(歳),性別,BMI(kg/m2),緊急手術率(%),BNP(pg/ml)・Alb(g/dl)・GOT(IU/l)値,心原性ショック・昇圧剤・IABP・心タンポナーデの有率(%),術中情報は手術時間(h),術中出血量(ml),術後経過は挿管時間(h),CPK (IU/l)・WBC(103/ul)各最大値,術後からPT開始・端座位開始までの各日数と初回端座位保持可能率(%),起立開始,歩行開始までの各日数,生存率(%)と死亡例については理由を調査した.術後合併症は,IABP使用・不整脈・心・呼吸器・脳神経・腎合併症の有率(%)を調査した.術後合併症は,カルテに記載されたものを合併症と定義した.年齢,BMI,BNP・Alb・GOT値,手術時間,術中出血量,挿管時間,CPK・WBC最大値,術後からPT開始,端座位開始,起立開始,歩行開始までの各日数はマンホイットニーU検定を使用した.性別,緊急手術率,心原性ショック,昇圧剤使用,術前後IABP使用,心タンポナーデ,初回端座位保持率,生存率,不整脈・心・呼吸器・脳神経・腎合併症の有率には,χ2検定を使用した.解析はIBM SPSS Statistics Version 19を使用,危険率5%を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】当院臨床研究に関する倫理指針に準じて実施し,医の倫理委員会判定第1156号にて承認されている.【結果】表記は自立群:不可能群,()は四分位範囲として示す.年齢74(11):85(10),性別男/女5/4:5/10,緊急手術率82:100,BNP358.4(1207.5):612.7(1110.4),GOT107(153):301(322),心原性ショック33:80,手術時間2.6(3.1):3.2(2),挿管時間76(22):110(46),CPK最大値707(699):1559(2011.5),WBC最大値15.5(5.5):18.5(15.4),術後からPT開始までの日数1(1):3(1.5),初回端座位保持可能率67:23,起立開始5(1):6.5(9.3),歩行開始7(1):8(10.5),生存率100:53,心合併症率22:67,呼吸器合併症率44:80で有意差を認めた.有意差は,緊急手術率p<0.001,端座位保持可能率,歩行開始までの日数,生存率でp<0.01,その他p<0.05であった.死亡は不可能群で8例認め,理由は肺炎など感染症が3例,播種性血管内凝固症候群が1例,再破裂が4例であった.【考察】関根らは,外科手術を必要としたAMI患者が社会復帰できた理由として,運動療法が合併症を生じず安全に行えたことを挙げている.今回の検討では,自立群は手術前の合併症が少なく術後PT開始日数が早かった.つまり早期離床が可能で報告同様合併症を生じなかったことが歩行自立に関連したと考えた.不可群では,手術前にショック状態が多く臓器不全が進んでいる状態であり,手術後は心・呼吸器合併症が多かった.心合併症の発症は,機械的合併症のいずれも心筋の損傷は大きく,術後は低心拍出量症候群が生じ,IABPが必要となるため生じたと考えた.呼吸器合併症の発症は,血行動態が不安定なためIABP留置,鎮静下の挿管管理となるため,体位ドレナージを含むポジショニングが困難であり下側肺障害を生じやすいことや,長期挿管管理による肺炎などの感染症が関連したと考えた.このため安静臥床によるディコンディショニングを生じ離床が遅延するため歩行自立不可に関連したと考えた.また不可群では,各合併症が重複して発症するため術後管理に難渋することが多く,臓器不全や感染症により死亡する例もいたが,離床が進み歩行開始まで可能であった症例も存在した.死亡8例のうち4例は,離床が進んでいる最中で再破裂を生じていた.ガイドラインによると心破裂の危険因子には,初回心筋梗塞,高齢者,女性,心筋梗塞後急性期の高血圧がある.今回の検討では,運動療法中の再破裂はなかったが,高齢者,女性が多いことがわかっており,再破裂のリスクは高いことが示唆された.【理学療法学研究としての意義】AMI合併症で外科的治療が必要な患者の術後の心臓リハビリテーションの現状は十分明らでなく本研究が理学療法の必要性や安全性の一助になる.