抄録
【はじめに、目的】 近年,心疾患患者における身体機能および健康関連QOL(Health-Related Quality of Life;HRQOL)に関連する因子の一つとして身体活動セルフ・エフィカシー(Self-Efficacy for Physical Activity;SEPA)が注目されている.現在,早期退院が進む中,退院時に自信のない患者をしばしば経験するが,退院後長期でのHRQOLは不明な点が多い.よって、本研究目的は,退院1年後のSEPAを調査し,それに関与している要因について検討することである.【方法】 対象は,当院で心臓外科手術を施行した35例(男性24例,女性11例,平均年齢64.6±9.6歳)である.検討項目は,SEPA指標(手術前,退院時,退院後:1年後)と基礎情報として年齢,性別,基礎疾患の有無(DM,HT,HL,COPD,MI,CHF,PAD,CVA),手術前の左室駆出率(EF),手術時間,出血量,リハビリ進行状況(歩行開始日,歩行自立日,術後在院日数),退院時の6MD,膝伸展ピークトルク値,Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS),SAS(手術前と退院時の変化量)とした.基礎情報はカルテよりretrospectiveに調査した.SAS,HADS,SEPA指標(SEPA尺度)は自己記入式質問紙を配布し,回答を得た.退院後の調査は質問紙を郵送し,記入したものを返送する形式をとった.SEPA尺度は,各項目を0から100点に換算し,下位4項目(歩行,階段,重量物拳上,腕立て伏せ)と4項目をまとめた値の平均値を求め,総合得点とし使用した.手術前と退院後の総合得点の変化率が10%以上上昇した者を上昇群,10%以上下降した者を下降群,変化率が10%未満の者を変化なし群とし,3群を比較した.統計学的手法として,SEPA経過の比較に多重比較Tukey検定,総合得点の変化率3群の比較にFriedman検定,χ²検定を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 当院の倫理委員会にて承認を得た上で,全ての症例に本研究の趣旨を書面および口頭により説明し同意を得た.【結果】 SEPA尺度の変化は,総合では手術前61.4±22.1点,退院時47.3±30.8点,退院後63.0±27.7点であった.下位4項目も同様の傾向を示した.歩行、階段、腕立て伏せの手術前と退院時,退院後,重量物挙上の手術前と退院後,退院時と退院後,総合の手術前と退院時,手術前と退院後に有意差は認められなかった.重量物挙上の手術前と退院時,総合の退院時と退院後に有意差が認められた. 上昇群は34%(12例),変化なし群は46%(16例),下降群20%(7例)であった.SEPA尺度総合得点の手術前,退院後は、上昇群は56.5±15.8点,75.0±14.6点,変化なし群は71.3±20.9点,71.4±20.8点,下降群では47.1±26.1点,23.3±24.6点であった.3群間の比較では,基礎情報の年齢,性別,基礎疾患の有無(DM,HT,HL,COPD,MI,PAD,CVA),EF,手術時間,出血量,リハビリ進行状況には有意差を認めなかったが、基礎疾患のCHF(33%,19%,86%),退院時の6MD(453.7±60.3m,447.4±89.4m,364.7±96.2m)とSAS(+1.1±2.4,+1.6±4.5,-5.0±4.4)では変化なし群と下降群,膝伸展ピークトルク値(1.8±0.5Nm/kg,1.8±0.5Nm/kg,1.2±0.3Nm/kg)とHADSの不安(3.4±3.4点,3.2±2.3点,6.9±3.2点)と抑うつ(3.0±2.4点,3.2±2.3点,7.1±3.6点)では上昇群と下降群,変化なし群と下降群に有意な差を認めた.【考察】 SEPAは手術前から退院時にかけて低下し,退院1年後にかけて上昇する傾向を示した.重量物挙上の手術前から退院時にかけて有意な低下を認め,これは創部痛や上肢の禁忌動作による影響によるものと考えられた.総合では退院時から退院後にかけて有意な上昇を認め,手術前と同程度まで上昇した.創部痛の改善や上肢の禁忌動作の制限解除,活動性の向上によるものと思われた. 3群間の検討では,基礎疾患CHFの有無,身体機能の指標である6MD,膝伸展ピークトルク値,SASで有意差を認め,抑うつ・不安の指標(HADS)でも有意差が認められた.心不全合併症例では手術前の活動量が低く、術前心不全による活動制限や術後心不全状態の改善に時間を要し,CHF症例以外と比較して運動耐容能が改善していないため、退院時の6MD等の身体機能の低下やHADSが上昇しているものと考えられた.よって,入院中に身体機能が十分に向上していないことが,1年後のSEPA低下に影響している可能性があった.【理学療法学研究としての意義】 心臓外科手術後患者の退院後長期のSEPAの推移またはSEPAに関与している要因を明らかにし,その要因に対する介入をすることで,長期のSEPAまたはHRQOLの向上に繋がることが期待される。