抄録
【はじめに、目的】 若年性特発性関節炎(以下JIA)は多関節罹患の疾患であり、関節病変は様々な日常生活動作(以下ADL)制限を呈する原因となる。関節破壊により保存的治療で改善が見込めない症例は、人工関節がADLを改善するための有効な方法である。しかし、多関節置換術を必要とする患者では上肢や足部などの関節の障害を伴うことが多く、機能的予後は一般的に悪いとされている。今回、両側の骨性強直股と併発した両側変形性膝関節症のため歩行困難となり、下肢四関節全人工置換術を施行したJIAの理学療法を経験した。術後の多様な症状のため治療に難渋したが、歩行の獲得とADL改善が得られたため報告する。 【方法】 症例は、30歳女性。現在はSteinbrocker Stage4、Class4。5歳でJIAを 発症し、15年前より股関節痛が出現。除痛のため装具で固定治療をしていたところ2ヶ月程度で急激に両側股関節が骨性強直となる。その後変形性膝関節症を併発。室内歩行はなんとか可能であったが、移動は主に車椅子だった。目標は一人暮らしをすることであり、ADL改善、屋外歩行獲得を目的に、両側人工股関節全置換術(以下THA)、両側人工膝関節全置換術(以下TKA)施行予定となった。本症例の関節可動域(以下ROM)、日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下JOA)、機能的自立度評価表(以下FIM)、歩容を評価した。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の報告に関して患者に十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 術前、ROM(Rt/Lt)は股関節屈曲20°/25°、外転15°/15°の強直肢位、膝関節屈曲85°/85°伸展-25°/-25°。JOA20/25点。FIM81点であった。歩容は、股関節屈曲拘縮のため体幹前傾位。下肢伸展位で遊脚を体幹側屈、骨盤の回旋で代償して歩幅が減少していた。H22年10月に右THA施行。4週より荷重開始。理学療法プログラムは、下肢のROM練習、骨盤前後傾運動、筋力強化練習を実施した。杖や平行棒支持が困難なほど手指変形が著しく、平行棒を前腕にて支持できるよう高さ調整をして荷重、歩行練習を実施した。歩行開始直後より右膝痛出現し荷重困難となったが弾性包帯緊縛にて対応。股関節筋力回復に伴って膝痛は軽減した。室内独歩可能、FIM92点となり9週で退院。H23年2月に左THA施行。4週より荷重開始。左側立脚において体幹を左側屈させるDuchenne跛行が強かったが、左股関節周囲筋の筋力強化により徐々に軽減。屋外独歩可能、FIM101点となり術後20週で退院。H23年10月に右TKA施行。1週後より歩行練習開始。右膝関節の屈曲拘縮が改善して脚長差が2cm出現したため、左足に補高スリッパ作成した。院内歩行可能、FIM101点となり、術後16週で退院。退院後の室内移動は松葉杖を使用していた。H24年2月下旬に左TKA施行。1週後より歩行練習開始。左立脚期の左膝折れが著明であったが、低負荷での筋力練習の継続にて徐々に跛行消失。術後8週より階段昇降練習開始。術後16週に室内歩行自立、階段昇降監視レベルとなった。最終評価は、ROM股関節屈曲70°/75°、伸展-10°/-10°、外転35°/30°、内転10°/10°、膝関節屈曲110°/105°、伸展-10°/-10°。JOA85/80点。FIM123点。歩容は、股関節、膝関節の伸展可動域が改善し、体幹、骨盤正中位で股関節運動での下肢遊脚が可能となり、歩幅が増大した。屋外歩行可能、手すりを使用して2足1段にて階段昇降自立となり、術後20週に退院。現在はADL自立しており、運転免許取得や就職先が決定するなど、QOL向上がみられている。【考察】\t 下肢四関節全置換術とその後の理学療法によりJOA、FIMが著明に改善し、屋外歩行、階段昇降が可能となった。本症例は、多関節の重度変形、疼痛とそれに伴う筋力低下が著明であり治療に難渋し長期間の介入を必要とした。また、股関節機能の再建により膝痛が出現して荷重が困難になる、TKA術後は可動域の改善に伴って脚長差が出現するなど、多関節置換により隣接関節や全身のアライメントに影響があった。よって下肢四関節全置換術後の理学療法では、術部位のみでなく全身的、多面的なアプローチが必要であると考える。一方、ADLは改善したが若年症例に対する人工関節置換術はLoosening等が危惧される。しかし、症例数が少ないため長期成績はまだ明らかになっておらず、今後の経過観察が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 JIAによる多関節障害に対して下肢四関節全置換術を行い、全身のアライメントの変化に応じた理学療法を展開することで歩行の獲得とADL改善が可能であることがわかった。