抄録
【はじめに、目的】 近年のスポーツ競技の低年齢化や競技種目の多様化,生活環境や生活習慣の変化に伴う運動過小などにより,学校現場における小・中学生の運動器障害の増加が問題視されている.従来の学校での定期健康診断は内科検診時に脊柱側弯症検診が中心に行われてきたが,2005年より運動器の10年日本委員会による「学校における運動器検診体制の整備・充実モデル事業」が開始された.愛媛県も2007年より参画し,整形外科医により運動器検診が行われてきたが,2012年より初めて理学療法士が西条市の小・中学校運動器検診に関わる機会を得た.そこで検診事業を通じて,成長期の運動器障害の発生要因について調査検討し,理学療法士が学校検診に関わる意義について報告する.【方法】 西条市内の小学校5校(5年生),中学校5校(1年生)の計10校(914名)に対し,保健調査票を用いた一次検診を実施した.調査項目はスポーツ歴,受傷歴,治療歴,四肢・脊柱の評価(側弯,肘の変形,膝の変形,歩き方,しゃがみ込みの可否,腰屈伸時の疼痛,四肢・脊柱の疼痛)とし,回答・提出のあった898名(回収率98.2%)を対象とした.これを年代別で小学生群(339名)と中学生群(559名)に,性別で男子群(453名)と女子群(445名)に,スポーツ歴で有り群(535名)と無し群(363名)に分け,四肢・脊柱の評価項目を比較検討した.統計処理にはMann-Whitney's U検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 検診内容については保護者に説明し同意書を得た.また,個人情報の取扱いや検診時のプライバシーには十分配慮した.【結果】 年代別では,しゃがみ込みの可否と腰屈伸時の疼痛において有意差を認め(P<.05),スポーツ歴では,四肢・脊柱の疼痛において有意差を認めた(P<.05).更に性別においては,しゃがみ込みの可否で極めて有意な差を認めた(P<.01).その他の項目においては各群で有意差は認めなかった.そのうち理学療法士による二次検診を必要とした者は418名(46.5%)であり,167部位に何らかの障害を認めた.内訳は下肢が123部位(73.7%)を占め,小学生36部位(21.6%),中学生87部位(52.1%),脊柱は32部位(19%)中,小学生10部位(6%),中学生22部位(13%)であり,特に中学生年代で下肢障害や腰痛症が増加する傾向がみられた.また,二次検診で支障ありと判断された児童・生徒には作成したパンフレットを用いてアイシング,ストレッチ,筋力トレーニングのアドバイスを実施した.【考察】 今回の結果より,年代別,性別,スポーツ歴でそれぞれ特有な症状が認められた.一般的に成長期の発育には個人差・性差があり,PHV年齢(身長最大発育量年齢)は男子で13.3歳,女子で11.6歳と1.7歳の差を認め,PHV年齢時の発育加速度も男子の方が大きいと報告されており,男子は中学生年代で発育のピークを迎える.この時期では,急激な骨成長による筋腱成長との不均衡から,筋,腱,関節包などの軟部組織の緊張度が高まり,下肢筋の柔軟性低下や股,足関節の可動性低下が生じるといわれている.しゃがみ込みの可否において,年代別に加え,性別で極めて有意な差を認めたのは,これらの成長期の要因が深く関連し,更に生活環境や生活習慣の変化に伴う運動過小に起因する運動機能低下も要因であると考えられた. 今回の調査で,中学生年代における競技種目は野球,サッカー,武道などが上位を占めており,近年はダンスの競技人口も増えてきている.これらの種目は幼少期より開始し,中学生以降も継続して行われるケースが多い.特に小学校高学年から中学生年代は,練習頻度や練習量の増加に伴い,特定の運動器への負荷が増加する時期でもある.二次検診結果においても,中学生年代でOsgood病などの骨端障害や骨軟骨障害,腰痛症が増加する傾向がみられたことから,年代別で腰屈伸時の疼痛に,スポーツ歴で四肢・脊柱の疼痛にそれぞれ有意差を認めたのは,成長期でのスポーツ過多による特定の運動器のOveruseが要因と考えられた. 以上のことから,成長期運動器障害の発生要因には成長期の要因,スポーツ要因,生活環境・生活習慣の要因など複数の要因が深く関連していると考えられるため,今回のように理学療法士が学校検診に関わり,何らかの障害を抱える児童・生徒を早期に発見し,適切なアドバイスを行うことは成長期における運動器障害の早期発見・予防のために有益であり,意義は大きいと考える.【理学療法学研究としての意義】 小・中学生年代は成長期のピークとスポーツ活動によるOveruseが重なることで様々な病態を発症し,しばしば後遺症を生じる場合もみられる.そのため,理学療法士が直接学校検診に関わり,早期発見や個々の症状に応じた適切なアドバイスを与えることは障害予防の観点において有益であると考える.また,次年度からは規模を拡大し,県士会事業として継続予定であり,将来的に理学療法士の職域拡大にも繋がると考える.