抄録
【はじめに、目的】当院Stroke care unit(以下SCU)では理学療法士の評価によって、患者の病棟での移動手段や歩行の自立の可否を決定している。一般的な傾向として急性発症した脳卒中患者には、介助の必要はないものの高次脳機能の低下による転倒リスクを考慮し、監視を必要とするケースが見受けられる。Patlaらの報告では、環境を把握する注意認知機能がバランス能力に関係していると述べているが、バランス機能と高次脳機能との関連性についての調査は少ない。そこで本研究では、急性期脳卒中患者における病棟歩行の自立の可否を判断する要因を明確にするため、バランス機能と高次脳機能の関連性を調査、検証することにした。【方法】対象は2012年7月から8月までに当院SCUに入院した急性期脳卒中片麻痺患者23名(平均年齢68.1±9.9歳、男性14名、女性9名)で、重度の意識障害および失語症を呈し、コミュニケーション困難な者は除外とした。理学療法士が評価した時点での病棟歩行をFunctional Independence Measure(以下FIM)を用いて、歩行自立群(FIM7・6点、以下A群)、歩行監視群(FIM5点、以下B群)に分類した。発症から評価までの平均日数は2.0±1.4日であった。運動機能としてBrunnstrom Recovery Stage(以下BRS)・感覚障害・運動失調の有無とBerg Balance Scale(以下BBS)を評価した。高次脳機能として、スクリーニングを行うためにMini-Mental State Examination(MMSE)総合点と、その細項目得点に分けて検討した。また、発症後早期に高次脳機能についての詳細な評価は困難であり、患者の行動観察から歩行の自立の可否判断することが多いため、豊倉によって開発された注意障害に関する行動評価尺度Behavioral Assessment of Attentional Disturbance(以下BAAD)を用いて検証した。BAADは発症から一週間の評価とし病棟看護師にも情報収集し評価した。分析方法は、評価の全項目について基本統計量の算出を行った。また、FIMを基準としてA群とB群の間でMann-WhitenyのU検定を用いて関連性を調べた。また、注意機能とバランス能力の関連性を検討するために、BBS総合得点とBAAD総合得点をSpearmanの順位相関係数検定を用いて検討した。解析にはExcel、SPSS19を用い、統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って行い、各評価時には内容、目的を説明し同意を得た。評価用紙は本研究者が厳重に管理を行い、データの入力後シュレッターで破棄し個人が特定されないように配慮した。【結果】A群とB群の間に有意差が認められた項目はBBS(A群48.1±4.0、B群31.6±10.5、P=0.001)とBAAD(A群1.7±1.7、B群7.3±3.5、P=0.001)であった。MMSE(A群27.5±3.1、B群24.8±3.6、P=0.055)で、細項目得点にも有意差は認められなかった。同様にBRS、感覚障害・運動失調の有無にも有意差は認められなかった。また、BBS総合得点とBAAD総合得点には負の相関を認めた。(rs=0.648)【考察】A群、B群間にはBBSでの有意差があり、先行研究と同様に歩行の自立にはバランス機能が関与していることが示唆された。BAADはBBSとの相関関係も認め、バランス能力には注意機能が大きく関与していることが示唆された。Gentileは歩行などのさまざまな条件下で環境をモニターしながら行う技能は、運動機能を保持していると同時に認知機能が必要だと報告している。また、Bernsteinはバランスとは環境に適応する運動行動の結果であり、身体機能だけでなく外界環境や提示された課題も含まれると報告している。急性期脳卒中患者にとっての病棟歩行は身体機能が急変し、発症前の歩行とは違う動作パターンで、かつ病棟という不慣れな環境の中で行うため、自己と環境に対する注意認知機能がより求められるのではないかと考えられる。急性期脳卒中患者を対象とする理学療法士の役割として、身体機能と注意認知機能を早期に、正確に評価する必要がある。そこで、「覚醒、発動性」「持続性の注意」「選択的注意」の関連を行動観察から判断できるBAADは、臨床的な評価尺度の一つとして有用であるといえる。急性期脳卒中患者の適切な活動度を決定することは無用な活動制限をすることなく、転倒予防に対しても有効であり、患者のQOLの向上にもつながる。日々状態が変わる急性期脳卒中患者の行動観察を行うことで早期自立に向けての関わりを病棟看護師とともに行う必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】急性期脳卒中患者の病棟歩行の自立の判断要因の一つとして、身体機能だけでなく注意認知機能の関連性が認められ、患者の行動を観察し評価することが必要だという若干の知見が得られた。今後、バランス機能に関する注意認知機能の詳細評価を検証していくことが重要であると考えた。