抄録
【はじめに、目的】歩行の改善は脳卒中後のリハビリテーションにおける目標の1つである.そのため,脳卒中患者の歩行は,関節運動範囲や床反力,エネルギーコストといった,さまざまな観点より評価されてきた.しかし,脳卒中患者の歩行における協調性の障害を報告した研究はまだ多くはなく,一致した見解も得られていない.また,脳卒中患者の協調性に関する研究は,トレッドミル歩行での報告がほとんどであり,平地歩行における脳卒中患者の協調性は不明である.このようなことから,本研究の目的は,平地歩行での脳卒中患者の上肢,体幹および下肢の協調性の変化を明らかにすることである.【方法】対象は健常者(52~72歳),脳卒中患者(55~76歳,Brunnstrom stage 6:10名,modified Rankin Scale:平均1.3点)各10名である.課題として速度を変化させた平地歩行を行なった.歩行速度は各対象者の脚長から求められるフルード速度(Froude velocity:FV)の20%(低速度),40%(快適速度),60%(高速度)とした.各対象者に対し,Plug-In-Gait-full body(Oxford Metrix Ltd)に従い,赤外線反射マーカーを貼付し,三次元動作解析装置(VICON MXT-20)を用い歩行動作を測定した.歩行動作より,ストライド長,上肢(肩関節),体幹(上部体幹,骨盤),下肢(股関節,膝関節,足関節)の関節角度変位,相対位相を算出した.相対位相とは2つの身体部位,もしくは関節の動きの関係性を捉え協調性を評価する指標である.相対位相の算出方法は,まず各身体部位,関節角度変位の時系列データを,横軸を角度変位,縦軸を角速度とした位相図に再構築する.作成した位相図より位相角を算出し,2つの身体部位,もしくは関節の位相角の差が相対位相となる.相対位相は,右肩関節-左肩関節,骨盤-上部体幹,股関節-骨盤,膝関節-股関節,足関節-膝関節の組み合わせより算出した.ストライド長,相対位相は10歩行周期より平均値を算出し,各関節角度変位は5歩行周期より最大値,最小値の平均を算出した.各指標において速度の違いによる対象者間の比較を行なった.ストライド長,関節角度変位は一元配置分散分析を行い,有意差が認められた場合,多重比較検定を行なった.相対位相はvonMises分布である場合Watson-Williams F testを行い,von Mises分布でない場合,Mardia-Watson-Wheeler testを行なった.【倫理的配慮、説明と同意】全対象者には事前に研究の要旨を口頭及び書面にて十分に説明し,同意を得た.なお,本研究は山形県立保健医療大学倫理委員会、山形市立病院済生館倫理委員会の承認を得た.【結果】ストライド長では,20%,40%FVにおいて脳卒中患者が有意に低値を示したが,60%FVにおいて有意差はなかった.関節角度では,どの速度においても肩関節伸展,骨盤回旋角度以外で有意差はなかった.相対位相では,20%FVでの股関節-骨盤において脳卒中患者が有意に高値を示した.40%FVでは,脳卒中患者が右肩関節-左肩関節において有意に低値を示し,股関節-骨盤,足関節-膝関節において有意に高値を示した.60%FVでは,足関節-膝関節において脳卒中患者が有意に高値を示した.【考察】脳卒中患者の歩行動作において,低速度では股関節-骨盤の位相差が増加した.これらの変化は歩行速度を増加することにより改善されたが,新たに足関節-膝関節の位相差が増加した.軽度麻痺を示す脳卒中患者の下肢協調性の障害は,低速度では中枢部,高速度では末梢部で生じるといった速度依存的な変化を示した.股関節-骨盤の相対位相の増加は,股関節屈曲伸展と骨盤回旋動作のタイミングが変化したことを示し,脳卒中患者におけるストライド長の減少と関与していたと考えられる.足関節と膝関節は逆位相で動くことにより,身体重心の上下運動を減少させる.そのため,脳卒中患者は高速度において足関節-膝関節の相対位相が増加しており,身体重心の上下運動が大きい非効率的な歩行を行なっていたと考えられる.【理学療法学研究としての意義】軽度麻痺を示す脳卒中患者の歩行動作において,関節角度変位では下肢の障害を捉えることはできなかった.しかし,相対位相を用い下肢協調性を評価することにより,速度依存的に変化する協調性の障害が示された.脳卒中患者の歩行動作を協調性の観点から評価する場合,様々な速度で評価することが重要であることが明らかとなった.