理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-05
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セレクション口述発表
脳卒中片麻痺患者の歩行における加速度計を用いた力学的エネルギー評価の妥当性の検討
小田 ちひろ小宅 一彰山口 智史田辺 茂雄菅澤 昌史近藤 国嗣大高 洋平
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キーワード: 歩行分析, 床反力計, 誤差
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抄録
【はじめに、目的】歩行中の重心運動における力学的エネルギーの交換率から、歩行効率を評価することが可能である。健常成人の歩行において、体幹に装着した加速度計による力学的エネルギー評価は、床反力計との妥当性が報告されている(Meichtry 2005)。しかしながら、脳卒中片麻痺患者の歩行では、姿勢の非対称性や代償動作による過剰な体幹運動が生じるため、加速度計では力学的エネルギーを正確に評価できない可能性がある。そこで本研究では、脳卒中片麻痺患者において、加速度計が歩行の力学的エネルギー評価に適用できるか、床反力計との妥当性を検証した。【方法】対象は、2012 年5 月から11 月までに当院回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺患者11 名とした。採用基準は、杖を使用せずに10m以上の歩行が可能で、下肢に関節疾患や疼痛がない者とした。年齢は64 ± 13 歳(平均値±標準偏差)、発症後日数は94 ± 56 日、下肢運動麻痺はBrunnstrom stageでIIIが2 名 、IVが1 名、Vが6 名、VIが2 名であった。歩行レベルは、6 名が監視を要し、5 名が自立であった。課題は、杖を使用しない至適速度での10m歩行とし、5 回測定した。測定には、小型ワイヤレス加速度計(ワイヤレステクノロジー社)および床反力計4 基1 基サイズ(60 × 120cm:ANIMA社)を用いた。両機器は、サンプリング周波数を60Hzで同時に記録した。加速度計は、対象者の第三腰椎部に固定し、3 軸方向の体幹加速度を測定した。得られた加速度は、前後加速度のピークから歩行周期を特定し、定常歩行5 周期分を加算平均した。床反力計では、3 軸方向の床反力を測定した。得られた床反力は、鉛直成分が50N以上となる時点を初期接地とし、歩行周期を特定した。重心加速度は、左右下肢の合成床反力から体重を補正して算出した。床反力計および加速度計で得られた加速度データは、時間で積分し速度を求め、その速度を積分し、変位を算出した。3 軸方向の速度から運動エネルギー、上下方向の変位から位置エネルギーを算出した。さらに両エネルギーの和から全力学的エネルギーを算出した。力学的エネルギー(J)は歩行周期における増加量として定量化し、それぞれpotential work(Wp)、kinetic work(Wk)、total mechanical work(Wt)とした。さらに歩行効率の指標として、位置エネルギーと運動エネルギーの交換率(%Recovery:%R)を算出した。%R(%)は(1 −Wt/(Wp+Wk))× 100 で算出した。統計解析には、5 回測定した平均値を用いた。床反力計と加速度計の測定値の関係は、Pearson積率相関係数で検討し、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】当院倫理審査会の承認後に実施した。研究への参加にあたって、対象者には事前に研究内容を十分に説明し、同意を得た。【結果】力学的エネルギーは、Wpで加速度計37.6 ± 12.7、床反力計32.7 ± 9.5 であり、測定値の差(加速度計−床反力計)は平均4.9 ± 8.6(95%信頼区間:2.9 〜6.8)であった。Wkは加速度計24.1 ± 10.3、床反力計15.0 ± 6.7 であり、差は平均9.2 ± 5.0(95%信頼区間:7.7 〜10.7)であった。Wtは加速度計21.8 ± 9.0、床反力計21.5 ± 7.4 であり、差は平均0.3 ± 7.3(95%信頼区間:−1.5 〜2.1)であった。%Rは加速度計63.4 ± 13.2、床反力計53.1 ± 14.7 であり、差は平均10.4 ± 8.7(95%信頼区間:8.4〜12.3)であった。相関係数は、Wpで0.74、Wkで0.91、Wtで0.62、%Rで0.81 であり、すべて有意(p<0.05)であった。【考察】脳卒中片麻痺患者において、加速度計を用いた力学的エネルギー評価は妥当性があることが示された。したがって、加速度計を用いた力学的エネルギー評価は、対象者間における測定値の個人差を反映できると考えられた。しかしながら、加速度計から得られたデータは床反力計から得られたデータに比べ高値を示すことが多く、測定機器間で誤差を認めた。この誤差には、系統誤差が存在する可能性がある。このような測定誤差が生じる一因として、加速度計の計測軸と空間座標軸の不一致が考えられる。今後の研究では、床反力計との測定誤差が生じやすい対象者の特性について更なる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究は、脳卒中片麻痺患者の歩行における力学的エネルギーを評価するうえで、測定環境の制約が少ない加速度計を適用できることを示した点で意義がある。
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© 2013 日本理学療法士協会
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