抄録
【はじめに、目的】不活動による骨格筋における活性酸素種(ROS)の過剰産生は酸化ストレス障害を誘発し,筋萎縮や微小血管障害を引き起こす.先行研究において,抗酸化サプリメントであるアスタキサンチン摂取による栄養サポートは不活動における骨格筋の微小血管障害を予防したが,筋萎縮を予防することはできなかった.一方,筋萎縮を予防する一つの手段として,荷重負荷などの運動が有効とされるが,萎縮筋への荷重は炎症を惹起し,酸化ストレスが増加するという報告もある.筋萎縮予防のために荷重負荷を行う際,抗酸化サプリメントの摂取を併用し,荷重負荷による酸化ストレスを軽減することができれば,微小血管障害の予防だけでなく,筋萎縮の予防効果も期待できるのではないかと考えた.本研究では廃用性筋萎縮に対する抗酸化サプリメント摂取による荷重負荷の効果をについて検証した.【方法】10 週齢の雄性SDラット35 匹を対照群,後肢非荷重群(HU),後肢非荷重+アスタキサンチン投与群(HU+AX),後肢非荷重+荷重群(HU+Lo),後肢非荷重+アスタキサンチン投与+荷重群(HU+AX+Lo)に区分した.アスタキサンチン(富士化学工業)は100mg/kg/日を経口投与し,荷重は1 時間/日とした.2 週間後にヒラメ筋を摘出し,ATPase染色から筋線維横断面積と筋線維タイプ比率,共焦点レーザー解析で毛細血管容積を測定した.また,酸化ストレスの指標として骨格筋内のROSとSOD-1 を測定した.ミトコンドリア新生に関与するe-NOSとPGC-1 αのタンパク質発現量をウェスタンブロッティングにより測定し,酸化的リン酸化反応に関係する筋線維のコハク酸脱水素酵素(SDH)活性を分析した.得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey法による多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得たうえで実施した.【結果】HU群とHU+AX群の筋線維横断面積は対照群と比べて有意に低値を示したが,HU+Lo群とHU+AX+Lo群はHU群と比べて有意に高値を示した.ROSとSOD-1 は,HU群とHU+Lo群では対照群と比べて有意に高値を示し,HU+Lo群ではHU 群と比べて有意に高値を示した.一方,HU+AX群とHU+AX+Lo群は対照群との間に有意差を認めなかった.ヒラメ筋における毛細血管容積は,HU群とHU+Lo群では対照群と比べて有意に低値を示したが,HU+AX群とHU+AX+Lo群は対照群との間に有意差を認めなかった.タイプI筋線維比率においても毛細血管容積の結果と同様の傾向を示した.PGC-1 αの発現量は,HU群とHU+Lo群では対照群と比べて有意に低値を示したが,HU+AX群とHU+AX+Lo群はHU群およびHU+Lo群と比べて有意に高値を示した.PGC-1 αの上流因子であるe-NOSの発現量は,HU群は対照群,HU+AX群,HU+Lo群と比べて有意に低値を示したが,HU+AX+Lo群は他の4 群と比較して有意に高値を示した.筋線維のSDH活性に関して,HU群は対照群と比べて有意に低値であったが,HU+AX群とHU+Lo群はHU群に比べて有意に高値であった.また,HU+AX群とHU+Lo群は対照群と比べて有意に低値であったが,HU+AX+Lo群と対照群の間には有意差を認めなかった.【考察】不活動によって骨格筋の酸化ストレスは増加し,筋萎縮と微小血管障害が生じた.一方,アスタキサンチンの摂取は,不活動に伴う酸化ストレスの増加を抑制し,e-NOSとPGC-1 α発現の減少を軽減し,速筋化と微小血管障害を予防した.一方,アスタキサンチンの摂取のみでは筋萎縮を予防できなかった.また,筋萎縮は荷重負荷によって軽減できたが,荷重負荷のみの介入では不活動に伴う骨格筋の酸化ストレスを更に増加させ,筋線維の速筋化と微小血管障害を予防できなかった.荷重負荷では,e-NOSの発現を維持しミトコンドリア新生を促したが,酸化ストレスの増加がミトコンドリア機能障害を引き起こしたと考えられ,結果的に速筋化及び微小血管障害を予防できなかった可能性が示唆される.一方,アスタキサンチン摂取と荷重負荷の併用は,不活動と荷重によって生じる酸化ストレスの増加を共に軽減し,不活動に伴う筋萎縮と微小血管障害を効率的に予防した.【理学療法学研究としての意義】荷重にアスタキサンチンを併用することで筋萎縮と微小血管障害を効率的に予防した結果は,栄養サポートが運動療法の補助的手段になり,効果的な運動療法を行えることを示唆している点で意義があると考える.