理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-23
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一般口述発表
ロボットスーツHAL装着歩行における呼吸循環応答
荒木 海人舩戸 雄太金井 友美田島 宏紀冨田 隆之角田 絋二江口 勝彦
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抄録
【はじめに、目的】ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は,装着することによって身体機能を拡張したり,増幅したりすることができる世界初のサイボーグ型ロボットである.HALは脊髄損傷(不全麻痺)や脳卒中片麻痺を中心に臨床応用が進みつつあるものの,生体に対する基礎研究は開発者らによるもの以外はほとんど手付かずの状態である.一般的な義肢や装具でも,運動機能の補助になる一方,装着することそのものがストレッサーになったり,不快感を喚起したりすることがあるという報告もある.本研究の目的は,HAL装着による身体への負荷に関する基礎的データを得ることであり,健常成人を対象に一定歩行時の呼吸循環応答について検討したものである.【方法】対象は若年健常成人男性13 名(平均年齢20.5 歳± 1.08)であった.対象全員に対し,条件1: HAL装着,条件2: HAL非装着の2 条件でトレッドミルによる一段階運動負荷試験を行ない,心拍数,収縮期血圧,酸素摂取量,自覚的運動強度および二重積について検討した.測定条件の順序はランダム配置とし,1 日1 条件で行った. HALの制御モード設定は, HAL そのものの重さはキャンセリングするが,積極的なアシストは行わない「粘性補償制御モード(Viscosity Compensation Controlモード:以下VISモード)」で,Walkモードの歩行速度最大にて実施した.また,HALの装着および操作は,CYBERDYNE社の定める安全講習会の受講者のみで実施した. 運動負荷にトレッドミル(AR-200,ミナト医科学),心拍数の測定には心電計(WEP4202,日本光電),血圧測定に自動血圧計(EBP-300,ミナト医科学),酸素摂取量の測定には呼気ガス分析装置(AE-300S,ミナト医科学)を用いた.運動負荷のプロトコルは,1) 椅子座位による5 分間の安静,2)speed 1.0km/h,grade 0%で1 分間のウォーミングアップ,3) speed 3.0km/h,grade 8%で5 分間の一定負荷,4) speed 1.0km/h,grade 0%で1 分間のクールダウンの一段階負荷とした.データは安静時,及び一定負荷歩行終了直前の値を用い,心拍数,収縮期血圧,酸素摂取量,二重積は,歩行時の値から安静時の値を減じ,さらに安静時の値で除した変化率を算出, 自覚的運動強度は歩行後の値を用いた.データ解析には統計解析ソフト(JMP5.0.1, SAS Inst.)を用い, HAL装着,非装着の2 条件間で対応のあるt検定を用い分析した.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,研究目的,方法,参加による利益と不利益などを説明し,同意を得た.対象は全員自らの意思で参加した.また,本研究は本学研究倫理委員会の規定に基づき,研究倫理審査により承認(承認番号12-9)後実施した.【結果】心拍数の変化率は条件1(+66.07 ± 15.28%),条件2(+38.49 ± 10.78%)と条件間での有意差を認めた(p<0.001).収縮期血圧の変化率は条件1(+21.14 ± 11.11%),条件2(+17.00 ± 11.24%)と条件間での有意差はなかった(p=0.2765).酸素摂取量の変化率は条件1(+358.36 ± 76.24%),条件2(+272.07 ± 76.63%)と条件間での有意差を認めた(p=0.0107).二重積は条件1(+100.95 ± 24.67%),条件2(+62.36 ± 22.85%)と条件間での有意差を認めた(p<0.001).自覚的運動強度は条件1(13 ± 2.40),条件2(11 ± 1.12)と条件間での有意差を認めた (p=0.0038).【考察】HAL非装着歩行に対しHAL装着歩行の方が,心拍数,酸素摂取量,自覚的運動強度の変化率が高く, HAL装着が運動負荷要因の一つになっていることが明らかになった. 収縮期血圧の変化率には有意差がなかったものの,二重積では有意に変化率が高かったことから,心筋の酸素需要にも影響していることが示唆された.HALの主な適応には,循環器疾患である脳卒中による運動障害があり,リスク管理の面からも考慮する必要がある.今後は本研究の結果を活かしたリスク管理を行いつつ,心拍数や血圧の変動のみならず不整脈発生頻度や立位バランスに与える影響などを含め多角的に検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は直接臨床上活かせるものではないが, HALのより安全な適用を考える上で,貴重な基礎データであると考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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