理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-06
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ポスター発表
高位脛骨骨切術後の術側・非術側の長期的経過について
FTA・足部位置覚の変化と関連性について
野尻 圭悟
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抄録

【目的】筆者は第46回日本理学療法学術大会において、高位脛骨骨切術後患者(以下HTO患者)における矯正角と足部位置覚の特徴と関係性について報告した。HTO患者では術側足部が内外反0°もしくは外反位を足部のフラットと捉え、非術側では足部内反位をフラットと捉えており、また矯正角が大きいほど術側をフラットと知覚している患者が多かった。前額面上での膝のアライメント変化が、足部の位置覚にも影響を及ぼすことを示唆した。先行研究において島田ら(2011)はHTO側にLateral Thrustが生じる事を報告し、Martinら(2011)は、HTO術後非術側の内転モーメントの増大と内転角の増大が病態進行を助長すると述べている。バイオメカニクスにおける前額面上の変化は明らかとなっているが、静的な評価(FTA)と患者が捉える足部での平衡感覚の知覚を比較した研究は散見されない。今回HTO側と非術側のFTA・足部位置覚を、術後約1か月後と抜釘術を施行した後で比較し、FTA増大の有無と足部位置覚との関連性を調査したのでここに報告する。【方法】対象の母集団は2010年7月から12月に当院で片側HTOを施行した患者21名(女性16名,男性5名:平均年齢62.4±7.5歳)のうち、膝関節以外に外傷歴および疼痛を伴う関節を呈している症例と反対側のHTOを施行した症例を除外基準として取り込まれた者19名(女性14例,男性5例:平均年齢65.7±6.8歳)であった。対象患者は術後平均27±7.6日でFTA・足部位置覚を測定し、抜釘術(平均863±157日)を施行するために入院された際にまた同様の検査を行った。FTAの計測は両脚荷重下のレントゲン上で行い、位置覚の測定方法は、ハーフのストレッチポールの平らな部分に角度計を設置した。床面と測定面が平行にある状態をフラットと定義し、裸足・立位にて計測を行った。計測足部をハーフのストレッチポールを縦に置いた測定器に乗せ、反対側は同じ高さの台に乗って測定した。測定器と台には2等分線が引かれており、前足部は第1趾と第2趾の間を通り、後足部は踵の中点を通るものとした。測定前の状態を排除するため、被検者は床とフラットである事を目視と足の感覚で覚えた後に内・外反を自分自身で10回実施した。その後足部を目視せずフラットと感じた部分を検者に告げ、その内・外反角度を角度計にて計測した。その角度を「足部内・外反位置覚」とした。統計学的手法においてHTO術後・抜釘後のFTA・足部位置覚はt検定(p<0.05)を用い、FTAと足部位置覚の関連性を検討するためWilcoxon signed-rank testを用いて検討した。【説明と同意】対象者には本研究の内容を十分に説明し、口頭にて同意を得た後実施された。【結果】FTAは術側平均171.3±2.7°であったのが、抜釘後では平均173.2±2.1°とやや内反傾向になり有意差(p<0.04)を認めた。非術側は術後平均180.2±4.2°で抜釘後は平均182.8±2.8と、術側と同様に内反傾向を強める結果となった(p<0.03)。足部位置覚は、術側平均1.4±1.2°外反位が平均0.3±1.9°外反位へと足部内反方向へ変位し、非術側では平均1±1.4°内反位が平均2.6±2.9°内反位へと術側同様に患者がフラットと知覚する足部の位置覚は内反傾向になり、両側ともに有意差を認めた(術側:p<0.046・非術側:p<0.04)。またFTAと足部位置覚との相関では、HTO術後と抜釘後の非術側FTAと位置覚に中等度の相関が認められた(r=0.43)。しかし、術側のFTA・位置覚には術後・抜釘後に相関は認められなかった(r=0.216)。【考察】先行研究では、バイコンを用いた歩行での動的評価であったが、本研究において静的な立位アライメントでもFTAが増大する結果となった。術側におけるFTAの増大には様々な因子が考えられるが、HTOを施行したとしても股関節・足関節または患者の動作戦略を変化させなければ、手術したにも関わらず内反変形を引き起こしてしまう可能性が足部にも影響を与える事が示唆された。非術側でも同じように長期的な経過をみると、膝内反変形は助長されアライメント変化に伴い変形性膝関節症が進行する事が示唆された。また、非術側においてFTAの増大に伴い足部の位置覚も内反方向へ変位することから、患者が捉える床と足部との知覚的な障害も同時に生じており、非術側に対する治療は筋力増強やアライメントの修正だけでなく、深部感覚に対する治療も選択すべき項目になるのではと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究において、HTO術側・非術側での長期成績においてFTAの増大と足部の知覚的要素が関連していることが明らかとなり、手術施行後の入院期間において術側のみならず非術側への治療手段を考慮する必要性を示唆するものであり、臨床上意義深いものであると考える。

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