理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-07
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ポスター発表
高齢者における Opening wedge 高位脛骨骨切り術の適応に関する検討
佐藤 智代松尾 剛石井 達也井上 智人佐々 貴啓
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抄録

【はじめに、目的】高位脛骨骨切り術(High tibial osteotomy)は初期で軽度の内側型変形性膝関節症(Medial compartment osteoarthritis of the knee : 以下膝OA)や大腿骨内顆骨壊死(Spontaneous osteonecrosis of the knee : 以下膝ON)が適応とされている。この術式では自己の関節が温存可能で術前以上の膝機能の回復が期待でき、日常生活上においても術前と同様かもしくはそれ以上の活動性の向上を見込むことができる。中でもLCP(Locking compression plate)と吸収性骨補填材であるβ‐TCP(β-Tricalcium phosphate)を使用した開大式高位脛骨骨切り術(Opening wedge high tibial osteotomy:以下OWHTO)は手術侵襲が少なく初期固定が強固である為、早期より荷重歩行訓練が可能で今後の適応の拡大が期待される。しかし、HTOは初期の変形で若年者に適応となることが多く、高齢者における施術の報告は少ない。そこで今回、当院において高齢者に対しOWHTOが施行された症例を対象とし、術後理学療法の進捗状況を検討したので報告する。目的はOWHTOが高齢者において有効な術式であるかどうかを術後の理学療法プログラムの進捗状況、JOA scoreの改善度にて若年者と高齢者群間で比較し、それにより高齢者におけるOWHTOの有効性の検討と理学療法的アプローチの充実を図る事とした。【方法】当院のOWHTOに対する理学療法は術前に筋力、関節可動域、脚長差、歩行及びADL能力などの評価を行い、筋力訓練、関節可動域訓練を実施している。術後は1週より全荷重許可とし、歩行訓練を開始する。入院期間はおおむね術後5~6週で退院後は週1回程度の外来リハビリテーションを実施している。今回の対象は2009年10月から2012年11月の間に当院にてOWHTOが施行された91症例のうち75歳以上患者10症例(平均78.2歳:以下A群)、50歳代患者10症例(平均54.3歳:以下B群)計20症例とした。疾患としてはA群が膝OA6例、膝ON4例、B群は膝OA8例、膝ON2例であり、男女比はそれぞれ男性3例、女性7例であった。方法は2群間において術直後からの片松葉杖およびT字杖歩行獲得日数、術直後から術後3ヶ月にかけての日本整形外科学会OA膝治療成績判定基準(以下JOA score)の点数改善度を診療録より後方視的に調査し、A群‐B群間で比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】当院倫理審査委員会にて倫理審査を行い、適合性を得た。また、発表を行うに際し対象者に十分に説明をし、同意を得た。【結果】片松葉杖歩行獲得日数の平均はA群22.9(±4.6)日、B群23.2(±5.5)日、T字杖歩行獲得日数の平均はA群33.6(±7.4)、B群34.7(±2.9)日日、術後から術後3ヶ月のJOA score点数の改善度に関してもA群21(±10.7)点、B群19(±4.6)点と大きな差は見られなかった。ただし、B群と比較してA群においてT字杖歩行獲得日数においてばらつきがみられ、歩行獲得日数が遅延した症例がみられた。その要因としてはA群では反対側の股関節OAや膝OA、腰痛症等の疾患を保有している症例が存在した事があげられる。しかし結果としては、高齢者群にT字杖歩行獲得日数には幅がみられたものの松葉杖歩行およびT字杖歩行獲得日数とJOA scoreの改善度の平均値において2群ともに大きな差は認められなかった。【考察】両群間で片松葉杖歩行獲得日数、T字杖歩行獲得日数、JOA score点数の改善度の平均値を比較した所、2群間に大きな差は認められなかった。この事から、OWHTOは年齢による術後プログラムの時間的な変更は必要ないと考えられ、75歳以上の高齢者においてもOWHTOは有効な手術であるのではないかと推察される。しかし、結果から高齢者群においてT字杖歩行獲得日数やJOA scoreの改善度にばらつきがあることが分かった。特にT字杖歩行獲得日数が遅延していた症例では腰痛症や反対側の股関節や膝関節におけるOA等の他関節疾患を保有している事などが杖歩行を獲得する際に影響を及ぼしたのではないかと考える。これらの事から、他関節疾患の保有等の合併症が多い高齢者に対しては、特に術前からのJOA scoreや既往歴の把握、他関節の状態、歩行等の評価を行う事が重要であると考えられる。このように状態把握を行うことができれば、より術後リハビリテーションの円滑化を図ることが可能であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の研究を行ったことで、高齢者と若年者間でのOWHTO術後におけるリハビリテーションプログラムの時間的な変更の必要はないと考えられた。この事からOWHTOは高齢者においても有効な術式であるということが示唆された。ただし、高齢者において患者の保有する疾患によってプログラムの進行に差がみられた為、高齢者においては術前からの綿密な評価や既往歴に配慮した術後理学療法が必要であると考えられた。

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© 2013 日本理学療法士協会
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