理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-28
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ポスター発表
片脚スクワット動作における下肢関節モーメントの男女差〜前額面運動に着目して〜
西村 沙紀子
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抄録

【目的】様々なスポーツ現場で使用される片脚スクワット動作やランディング動作については前額面および矢状面での姿勢保持やバランスをテーマとしている先行研究が多い。片脚スクワット動作は,身体重心を上下移動しながら、その際生じる矢状面および前額面上の動揺を制御し、身体重心が支持基底面内から逸脱しないようにバランスをとる動作である。バイオメカニクス的手法を用いた報告では、スクワット動作時、女性では男性に比較し股関節内転角度、膝関節外反角度が増加すると述べられている。しかしこれらの研究は膝関節運動に注目したものであり、この時の前額面下肢関節モーメントの相互関係を述べた研究は見当たらない。また前額面上運動の男女差を検討したものも見当たらない。そこで我々は健常人における片脚スクワット動作の前額面上姿勢制御の男女差について、下肢関節モーメントに着目し検討することを目的とした。【方法】対象は整形外科的および神経学的疾患のない健常男性5 名、女性5 名の計10 名、年齢21.0 ± 1.5 歳、身長163.2 ± 7.3cm、体重57.1 ± 6.3kgであった。計測機器は三次元動作解析装置(VICON Motion system社 MXカメラ8 台)と床反力計(AMTI社製)を用い、サンプリング周波数100Hzで計測した。マーカー位置はplug in gait full body model に基づく35 点とした。すべての被験者で右側の下肢を対象とした。計測動作は、非支持脚の開始肢位を股関節軽度屈曲位とし、メトロノームに合わせて、2 秒で膝を曲げ、2 秒で膝を伸ばすよう指示した。片脚スクワットを連続3 回行い2 回目を抽出して解析した。解析項目は前額面上データを用い、足,膝,股関節各々の関節モーメント(それぞれ内外反、内外反、内外転モーメント)の最大値を算出した。被験者間の体格の差をなくすため計測された関節モーメントを体重で除し算出した。統計解析は男性群と女性群で対応のないt検定を使用した。全ての統計分析は統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には測定前に本研究目的と実験方法について説明し、研究参加ならびに研究終了後のデータ開示に関して同意を得た後計測を行った。【結果】片脚スクワット動作の膝関節屈曲時、股関節外転モーメントは男性で15.5 ± 2.4Nm/kg女性で21.4 ± 4.1Nm/kgであり有意差が認められた(p<0.05)。膝関節内反モーメントは男性で13.1 ± 2.8Nm/kg,女性で9.34 ± 7.1Nm/Kgであり有意差は認められなかった。足関節外反モーメントは男性で3.22 ± 0.5Nm/kg,女性は2.41 ± 0.7Nm/kgで有意差が認められた。( p<0.05 )【考察】本研究結果からスクワット動作の膝関節屈曲時において、女性は男性よりも大きな股関節外転モーメントを発揮していることがわかった。Willsonらによると女性の特徴としてスクワット動作時やランディング動作時には股関節が内転すると言われており、関節モーメントにおいても同様の結果であったと考える。また今回女性は男性よりも足関節外反モーメントが小さいことがわかった。女性は男性に比較し足関節での制御が小さく、股関節での制御が大きいことが示唆された。Shumway-Cookらは、ヒトは小さな動揺を制御する場合には足関節制御を、支持基底面が不安定であったり大きな動揺を制御する場合には股関節制御を使用すると述べている。これより同じ動作課題においても女性では足関節制御能力が男性より低く、より小さな動揺でも股関節制御を利用しながら姿勢制御を行っていることが示唆され、男性と女性で異なる姿勢制御パターンを呈することが示唆された。また股関節外転モーメントが増加し足関節外反モーメントが減少したことより、姿勢制御においては前額面では股関節外転と足関節内反、股関節内転と足関節外反という関節運動の組み合わせで姿勢制御を行っていたと考えられる。膝関節モーメントについては内外反モーメントは、有意差がなく男女間の差を明らかにすることはできなかった。しかし女性の膝関節モーメントは標準偏差が大きく、個人によりばらつきが大きく様々な姿勢制御の影響を受けることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】片脚スクワット動作時の下肢関節(足,膝,股)のモーメントの相互関係を把握することは、ある関節の運動が他関節に影響を及ぼすことを運動力学的に捉えることと等価と考えられる。また関節モーメントの男女差を把握することは性別による姿勢制御の相違を捉えることと考えられ、理学療法を施行する際、罹患部位のみの治療ではなく、姿勢制御パターンの違いや、隣接関節からの影響を考慮して治療に臨むことにもつながると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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