理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-28
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ポスター発表
リアルタイム加速度解析を用いた歩行分析システムにおける検者内・検者間信頼性の検討
大坂 裕新小田 幸一小澤 直人尾崎 千万生田邉 智子藤田 大介小原 謙一吉村 洋輔伊藤 智崇末廣 忠延渡邉 進
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抄録

【はじめに】加速度計を用いた歩行分析法は,利点である測定の簡便さに着目されがちであるが,床反力計や3 次元動作解析装置のように通常は歩行指標算出用の専用解析ソフトウェアが同梱していないため,歩行時体幹加速度から歩行指標を算出する解析を独自に行う必要がある。その過程が煩雑なことが,臨床の場で加速度計を用いた歩行分析が遠ざけられている理由の一つとして考えられる。また,いずれの先行研究でも解析はオフラインによるものであるが,オンライン解析により歩行指標がリアルタイムに算出可能となれば,臨床での有用性がさらに高まると推測される。本研究では,リアルタイム加速度解析ソフトウェアを含めた加速度歩行分析システムを開発し,測定における検者内・検者間の信頼性を,級内相関係数(ICC)に加え,Bland-Altman分析を用いて検討することを目的として行った。【方法】検者は臨床経験8 年を有する男性理学療法士(以下,検者A)と,臨床経験1 年を有する女性理学療法士(以下,検者B)であった。被験者は,整形外科疾患,神経筋疾患のない健常人20 人(男性11 人,女性9 人,平均年齢20.3 ± 0.5 歳)であった。臨床への導入を前提とし,3 軸加速度計,アンプ部,送信機,フットスイッチ,受信機およびリアルタイム加速度解析ソフトウェアを搭載したパーソナルコンピュータ(PC)で構成されるリアルタイム加速度解析歩行分析システム(以下,本システム)を開発した。PCにて受信した加速度信号を,リアルタイム加速度解析ソフトウェアにて解析し,歩行指標を算出した。加速度計とフットスイッチを被験者に装着し,10m歩行の開始と終了時にそれぞれ記録ボタンと停止ボタンを押すことにより,解析結果は測定終了後に即時的に算出できるようプログラムされている。算出される歩行指標には,先行研究にて検証した歩行の変動性を表すroot mean square(RMS),歩行の規則性を表すstride regularity(SR),歩行の対称性を表すstep symmetry(SS)を採用した。これら3 つの歩行指標を3 軸加速度計の3 つのチャンネル(CH)にてそれぞれ算出し,CH1 を鉛直方向,CH2 を左右方向,CH3 を前後方向とした。測定方法は,被験者に約15mの歩行路で快適速度による歩行を行わせ,体幹加速度を測定するとともに,歩行指標を算出した。加速度計の身体への装着部位は第3 腰椎棘突起を選択し,フットスイッチは両側踵部に貼付した。検者Aのみが測定する測定日Pと,検者Aと検者Bが測定する測定日Qを設定し,測定日Pと測定日Qは1 両日間隔を空け,順序は無作為とした。検者Aの異なる測定日で測定した歩行指標を比較する検者内信頼性と,検者Aと検者Bが異なる測定日で測定した歩行指標を比較する検者間信頼性のICCを求めるとともに,Bland-Altman分析により,検者内および検者間信頼性を検討した。検者内信頼性としてICC(1,1)を,検者間信頼性としてICC(2,1)をそれぞれ算出した。更に,検者内・検者間の測定誤差の分布範囲を調査するため,Bland-Altman分析を行った。2 つの測定値間の差をy軸,2 つの測定値の平均をx軸とするBland-Altman plotを作成し,系統誤差である加算誤差,比例誤差の有無を検討した。加算誤差は,測定値の差の平均の95%信頼区間を算出し,この区間が0 を含まない場合,正負いずれかの固定誤差が存在すると判断した。比例誤差は作成したBland-Altman plotにおけるPearsonの積率相関係数を算出し,有意水準5%にて有意な相関がみられた場合,比例誤差が存在すると判断した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,演者の所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。研究の実施に当たり,各被験者に事前に本研究の趣旨と目的を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名を得た。【結果】本システムにて算出された歩行指標におけるICC(1,1)は0.61 〜0.90 の範囲であり, ICC(2,1)は0.66 〜0.92 の範囲であった。Bland-Altman分析では,検者内・検者間いずれの歩行指標においても測定値の差の平均の95%信頼区間が0 を含んでいた。また,Bland-Altman plotの回帰に有意な相関を認めなかった。【考察】加速度計を用いた歩行分析法は,これまで高い信頼性が報告されている(Menz 2003, Moe-Nilssen 1998)。本システムにて得られたICCは0.61 〜0.92 の範囲を示し,いずれの歩行指標においても信頼性はpossible以上であった。また,Bland-Altman分析の結果,検者内・検者間のいずれの歩行指標においても加算誤差,比例誤差ともに存在するとはいえないことが確認された。開発した本システムによる計測では,系統誤差の混入を認めず,良好な再現性を有していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】測定と同時に解析結果が算出される本システムの信頼性を検証することにより,本システムの臨床導入による有用性が期待できることが示され,理学療法の効果判定に大きく寄与するものと考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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