抄録
【はじめに、目的】歩き始めやステップ動作における逆応答現象は先行随伴性姿勢調節(以下APAs)の1 つであり,床反力作用点(以下COP)がステップ脚側後方へ移動し,身体重心(以下COG)を支持脚側へ移動させる役割があると言われている.逆応答現象に関しては様々な条件で研究が行われているが,その多くは直線方向への歩行を対象としており,日常生活で多く見られる様々な方向や距離へのステップ動作の制御に関する報告は少ない.我々は,第47 回日本理学療法学術大会においてステップ方向の制御に関してCOGとCOP,股関節モーメントの関係性について報告した.本研究では,APAs期におけるCOP変位量,ステップ脚と支持脚の床反力に着目して分析を行い,ステップ方向と距離の制御方略を明確にすることを目的とした.【方法】対象は健常成人21 名(22.3 ± 2.9 歳,166.3 ± 0.8cm,59.9 ± 8.0kg)とした.運動課題は,静止立位から予め設定した8 条件(4 方向× 2 距離)のステップ動作とした.ステップ方向は,歩行路に設定した座標系に従い被験者を立たせ,矢状方向正面を0 度とし矢状軸から左右へ30 度,60 度,90 度と設定した.ステップ距離は,身長× 0.2(以下S条件)と身長× 0.4(以下L条件)と設定した.計測は各条件のステップ動作を無作為に左右3 回ずつ計48 回実施した.被験者の身体表面10 ヶ所(左右肩峰・股関節・膝関節・外果・MP関節)に赤外線反射標点を貼付し,三次元動作解析装置VICON612(VICON PEAK社製)と床反力計(AMTI社製)を使用し標点の三次元座標位置と床反力作用点を計測した.得られた時系列データをCOP移動開始からステップ脚踵離地まで(APAs期)で切り出し,ステップ脚側及び後方へのCOP最大変位量(以下COPstep,COPpost)と床反力鉛直・左右・前後成分を算出し,それぞれ身長と体重で正規化した.分析対象は利き足でのステップ動作とし,統計処理にはステップ方向と距離を2 要因とした二元配置分散分析反復測定法を用い,多重比較はBonferroni法を用いて行った.統計解析ソフトはIBM SPSS statics 19 を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の目的と方法について事前に口頭及び紙面で説明した.尚,本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号11 −141).【結果】COPstepは0 度方向のステップで最も大きくステップ脚側へ変位した.30・60・90 度では0 度に対してそれぞれS条件で31%・21%・18%,L条件で21%・13%・8%に減少し,0 度から30 度の間で最も変化が大きかった(p<0.01).またS・L条件間で有意な差は認められなかった.COPpostも0 度方向のステップで最も大きく後方へ変位した.30・60・90 度では0 度に対してそれぞれS条件で81%・52%・13%,L条件で93%・57%・16%に減少し,側方にステップするに従い徐々に減少した(p<0.01).またL条件の方がS条件に比べて有意に大きな変位を示した(p<0.01).ステップ脚鉛直・左右成分は0 度方向で最も大きな鉛直方向・支持脚側への床反力を示し,他方向では変化量が減少した.支持脚鉛直成分は0 度で最も減少し,他方向では変化量は減少した.支持脚左右成分は0 度では支持脚側,他方向ではステップ脚側への床反力を示した.前後成分は0 度方向ではステップ脚側が大きな前方への床反力を発揮していたが,他方向では支持脚側の方が大きな前方への床反力を示していた.【考察】本研究の結果から,ステップ方向や距離の制御はAPAs期におけるCOPstepとCOPpostを調整して行っていることが分かった.したがって,逆応答現象はCOGを支持脚側へ移動させる役割だけでなく,ステップ方向や距離を制御する役割もあることが示唆された.また,COPstepとCOPpostはステップ方向に応じてそれぞれ異なる変化パターンを示し,これは着地点の前後左右の座標値の変化率と近似していた.このことから,APAs期におけるCOP変位は着地点の変化を予測して行っていることが示唆された.ステップ距離は,足関節制御によりCOPの後方変位量を調整して行っていることが分かった.ステップ脚と支持脚は,ステップ方向と距離の制御に関して協調して働いていることが考えられた.【理学療法学研究としての意義】ステップ方向や距離の制御にはAPAs期のCOP制御が重要であり,ステップ脚・支持脚の役割について一定の見解を得ることができたため,本研究は,歩き始めやステップ動作の評価・介入,転倒予防などの更なる研究のための基礎的データとなると考える.