理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-12
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一般口述発表
末梢神経損傷によって生じる運動ニューロンの形態変化
芦川 聡宏村松 憲斎藤 利恵石黒 友康佐々木 誠一丹羽 正利
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抄録
【はじめに、目的】運動ニューロンは軸索が損傷しても,軸索を再伸長させて標的細胞を再神経支配するため,ある程度の機能回復が見込めるが,機能障害は長期的に残存することが知られている.このような機能障害の背景には回復過程で生じる運動ニューロンの細胞死や過誤支配が関連していると考えられる.末梢神経が損傷することによって,運動ニューロンは細胞体径の縮小や細胞数の減少を引き起こすことが報告されている.軸索が再伸長し,標的細胞への再神経支配が完成しても,一度損傷を受け変性した細胞体の性質は大きく変化している可能性がある.今回,内側腓腹筋を支配する神経枝を切断または挫滅したことによって生じる運動ニューロンの形態変化を調べた.【方法】Wistar系ラット10 頭用い,神経挫滅群(4 頭),神経切断群(3 頭),対照群(3 頭)に区分し比較した.手術は麻酔下にて,右膝窩部を切開し内側腓腹筋支配神経をピンセットを用いて挫滅させ,神経再生を許した群を挫滅群とし、神経を切断し、断端中枢部を縫合糸で結紮し神経再生を防いだ群を切断群とした.4 週間の回復期間後,麻酔下にて術側の内側腓腹筋神経を再度剖出し,挫滅あるいは切断した部位より近位にて神経を切断し,断端中枢側を10%Dextran溶液に2 時間浸し術創部を閉じた.対照群は内側腓腹筋支配神経へのDextranの暴露のみを行なった.3 週間の生存期間後,深麻酔下で左心室より10%パラフォルムアルデヒド溶液を用いて灌流固定し,L1 以下の脊髄を摘出し,80 μmの連続水平切片を作成した.切片を蛍光顕微鏡下にて観察・撮影し,細胞径と細胞数をコンピューター上で計測した.細胞体径は1 元配置分散分析後t 検定,細胞数はノンパラメトリック検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は杏林大学における動物実験等の実施に関する規定に準拠し,同大学動物実験委員会の承認のもとに行った.【結果】逆行性標識された運動ニューロン細胞数は対照群(平均120 個)と比較して挫滅群では平均93 個、切断群では81 個と減少した(p<0.08).細胞体径は対照群と切断群はいずれも平均34 μmとなり,差が認められなかったが,挫滅群では細胞体径が37 μmと,有意に大きかった(p<0.01).対照群の細胞径の分布を示すヒストグラムは30 μm付近を境に2 峰性を示し,大型のニューロンと小型のニューロンに区別可能であった.各群の細胞をこれに従い,30 μmを境に大型のニューロンと小型のニューロンに区別すると,対照群に比較して挫滅群,切断群の小型のニューロン数は有意に減少することが明らかになった(p<0.05). 挫滅群と切断群の比較では細胞数に有意な差異は観察されなかった.【考察】先行研究によると軸索損傷後4 週間までに軸索再生は完了しているため ,本実験で観察された運動ニューロンの形態変化は軸索再生に伴う一過性の形態変化を観察しているのではなく,挫滅群では元の筋への再神経支配が終了し、切断群で筋への再神経支配がない状態での軸索再生完了後の固定された形態であると考えられる.挫滅群は他の群に比べて細胞体の大きさが大きかったが,そのメカニズムは不明である.挫滅群,切断群共に小型の運動ニューロン数が減少した.軸索再生に関わらず,細胞数が減少傾向にあることは,小型のニューロンでは再神経支配後,細胞数の減少に伴う脊髄運動神経核内の神経回路の変化が起こっている可能性が示唆される.筋紡錘の錘内筋を支配するγ運動ニューロンは30 μm以下の大きさであることが知られている.本研究で30 μm以下のニューロンはγ運動ニューロンであると考えられるが,挫滅群にて観察されたように運動ニューロンの大きさ自体が大きく変化しているため,30 μm 以下の運動ニューロンをγ運動ニューロンとみなすには更なる研究が必要である.また,形態の変化が運動ニューロンの機能に及ぼす影響は重要な問題であり,今後より詳細な研究が必要であると考える.【理学療法学研究としての意義】本研究の最も重要な点は軸索の損傷様式によって,再神経支配終了後の運動ニューロンの大きさが異なることを示唆したことと,小型の運動ニューロンに性質の変化が起きている可能性を示した点にある.これらの事実は,新たな根拠に基づいた運動療法処方の開発の基礎となる可能性がある.
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© 2013 日本理学療法士協会
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