理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-P-08
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ポスター発表
施設入所高齢者における敏捷能力と転倒との関連
松原 彩香池添 冬芽
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キーワード: 高齢者, 転倒, 敏捷能力
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抄録
【はじめに、目的】理学療法士にとって高齢者の転倒の危険性を予測すること、転倒予防のための対策を考えることは非常に重要である。転倒とは重心が支持基底面外へ移動した際に、重心に合わせて支持基底面を調節することができない場合に起こる。そのため、転倒を予防するためには支持基底面を即座に移動させる敏捷能力が必要となる。敏捷能力の指標としては、反応時間や運動の素早さ、すなわちパフォーマンステストがよく用いられるが、このような敏捷能力と高齢者の転倒との関連について詳細に検討した報告はみられない。本研究は施設入所高齢者を対象に、敏捷能力として反応時間とパフォーマンスを評価し、敏捷能力と転倒との関連について明らかにすることを目的とした。【方法】施設入所高齢者19名(男性3名、女性16名、平均年齢84.5±7.2歳)を対象とした。なお、測定に大きな影響を及ぼすほどの重度の神経学的・筋骨格系障害および認知障害を有する者は対象から除外した。単純反応時間の指標として端座位で棒反応テストを測定した。棒反応テストは軽く開いた第一指と第二指の間に検者が予告なく落下させた棒をできるだけ速く握るよう指示した際の棒の落下距離を測定し、5回実施した平均値を求めた。選択反応時間の評価にはアイタッチ(株式会社三協製)を用いた。縦6個×横6個に配列された36個のボタンがランダムに点灯するのを素早く間違わずに押すという課題を端座位で1分間施行したときの平均反応時間を測定した。座位でのパフォーマンスの評価として開閉ステッピングテストを実施し、端座位でできるだけ速く両下肢の開閉動作をさせた際の30秒間でのステッピング回数を測定した。立位でのパフォーマンスの評価として立位でのステッピングテストを実施し、5秒間できるだけ速く左右交互の足踏みをさせた際のステッピング回数を測定した。なお、反応時間については二重課題能力の評価として、それぞれ開閉ステッピング動作と同時に行ったときの反応時間も測定した。対象者の過去1年間の転倒経験の有無により転倒群と非転倒群に分類し、Mann-Whitney検定を用いて群間比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】すべての対象者に本研究の十分な説明を行い、同意を得た。本研究は測定機関の倫理委員会の承認を得て行われた。【結果】転倒群は8名、非転倒群は11名であり、両群間の年齢、身長、体重には有意差はみられなかった。転倒群と非転倒群の反応時間を比較した結果、棒反応テストでは単純課題・二重課題ともに2群間に有意差はみられなかった。アイタッチによる選択反応時間について単純課題では2群間に有意差はみられなかったが(転倒群:1.12±0.24秒、非転倒群:1.01±0.19秒)、開閉ステッピングを行いながらの二重課題では転倒群は非転倒群と比較して反応時間が有意に遅かった(転倒群:1.16±0.22秒、非転倒群:1.03±0.16秒)。パフォーマンステストについては座位での開閉ステッピングテストでは2群間に有意差はみられなかったが(転倒群:29.1±14.3回、非転倒群:30.9±11.3回)、立位でのステッピングテストでは転倒群は非転倒群と比較してステッピングの回数が有意に低い値を示した(転倒群:11.9±3.5回、非転倒群:14.4±7.9回)。【考察】高齢者の敏捷能力を反応時間とパフォーマンスの2つの要素から評価し、転倒との関連について検討した結果、反応時間については単純反応時間、選択反応時間ともに転倒群と非転倒群の間に有意差がみられなかった。ただし、二重課題にしたときの選択反応時間では、転倒群は非転倒群と比較して反応時間が有意に遅かった。本研究の結果、反応時間については運動課題を加えた二重課題にすると選択的反応時間と転倒との関連がみられたことから、複数の刺激に対して素早く正確に判断して瞬時に反応する能力が高齢者の転倒予防に重要であることが示唆された。パフォーマンステストについては、座位での開閉ステッピングの回数は転倒群と非転倒群の間に有意差がみられなかったが、立位でのステッピング回数では2群間で有意差がみられた。このことから、座位よりも立位でのパフォーマンスが転倒と関連しており、立位で下肢をいかに素早く踏み出せるかどうかが虚弱高齢者の転倒予防に重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果、敏捷能力のなかでも立位での素早いパフォーマンスおよび二重課題での選択反応時間が高齢者の転倒と関連していることが示唆された。本研究結果は高齢者の転倒の危険性を予測するとともに、転倒を予防するためのトレーニング法を確立するうえでの一助になると考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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