理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-06
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セレクション口述発表
変形性膝関節症患者における歩行パターン分類の試み
クラスター分析による検討
小山 優美子建内 宏重後藤 優育大塚 直輝小林 政史市橋 則明
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抄録

【はじめに、目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)は中高年者の運動器疾患の中でも特に有病率の高いものであり,保存的治療として理学療法士による介入が行われることは多い.理学療法評価において歩行分析はよく行われ,得られた歩行の特徴より導き出された運動機能の問題点は,治療プログラムを決定する上で有用な情報となる.また,膝OA患者と健常者との歩容の相違や重症度と歩容の関連はこれまでに多数報告されている.しかし,膝OA患者の歩行パターンを定量的に分類し,その特徴毎に運動機能評価を行った報告はない. そこで,本研究の第一の目的を膝OA患者の歩容パターンを関節運動によって分類することとし,第二に歩行パターンの異なる群間で変形の程度,症状,運動機能の違いを検討することとした.【方法】対象は内側型変形性膝関節症と診断された地域在住の女性30名(62.9±7.0歳,身長154.8±5.4cm,体重55.8±6.4kg)とした.対象者が両側性の膝OAと診断されている場合はより疼痛の強い方を測定下肢とした.診断時に撮影されたX線画像より大腿骨軸と脛骨軸とのなす内側の角度(FTA)及びKellgren-Lawrence分類による重症度の評価を行った.さらに, JKOM(日本版変形性膝関節症患者機能評価表)を使用し疼痛やADL能力の評価を行った.JKOMの項目1「痛みの程度」はVASとして算出した. 動作課題は快適歩行とし,3回の測定を行った.計測には三次元動作解析装置VICON NEXUS及び床反力計を使用し,被験者には全身35箇所に反射マーカーを貼付した.踵接地時の膝関節角度,歩行周期の0~20%における膝関節最大屈曲角度及び屈曲角度変化量,歩行周期の20~50%での膝関節最大伸展角度及び伸展角度変化量,遊脚期の最大膝屈曲角度をそれぞれ算出し,3試行の平均値を角度パラメータとして解析に用いた.角度パラメータと同様にして立脚初期における膝内反モーメントの最大値も算出した. 歩行パターンの分類のために各被験者の角度パラメータを変数とする階層的クラスター分析を行った.被験者間の非類似度はユークリッド平方距離により算出し,クラスター間の非類似度の定義にはward’s法を用いた.分類を行った後に,FTA,重症度,JKOMスコア,VAS,歩行時の膝内反モーメント最大値をそれぞれ群間で比較した.正規性の確認された変数の比較にはTukey検定用いた.正規性の確認されなかった変数についてはMann-whitneyのU検定を行い,p値をHolm法によって補正した.また重症度の比較にはカイ自乗検定を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の主旨について説明の上,書面での同意を得た.【結果】 クラスター分析の結果,30名の歩容パターンは3つの群に分割された(A群=8名,B群=11名,C群=11名).3群で重症度,VAS,JKOMスコア,FTAに統計学的有意差は確認されなかった.また,歩行時の膝内反モーメントの最大値にも差は見られなかった.角度パラメータを群間で比較した結果,踵接地時の膝屈曲角度はC群が他の2群と比較して大きく,歩行周期の0~20%における膝最大屈曲角度はC群,A群,B群の順に大きく,屈曲角度変化量はB群が他の2群と比較して小さかった.また,歩行周期の20~50%での膝最大伸展角度はC群が他の2群より大きく,伸展角度変化量はB群が他の2群と比較して小さかった.遊脚期の膝屈曲角度はA群が他の2群と比較して大きい結果となった.【考察】 本研究では症状や重症度を反映すると言われている歩行時の膝関節運動を,比較的観察しやすい矢状面から分析することを試みた.分類に使用した角度パラメータの比較結果より,歩行周期全体で膝の屈伸運動が比較的十分な群(A群),立脚期での膝屈伸変化量の少ない群(B群),接地時より膝が屈曲している群(C群)の3群に分類された.3群の間で疼痛や内反変形の程度,ADL機能に差が見られなかったことから,膝OA患者の歩行分析において3つの膝関節運動パターンが観察でき、異なるパターンであっても膝関節機能は同程度に障害されている可能性が考えられた.また,これらの群で矢状面での膝関節運動が異なるにもかかわらず,膝内反モーメントに差が見られないことから,歩行時の膝内反ストレスを誘発する原因は3つの歩行パターン毎に異なっている可能性が示唆された.今後,他の関節の運動や筋活動などを包括的に分析し,膝関節の力学的負荷に影響する因子を検討する必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 先行研究にて膝OA患者の歩行特性は数多く報告されているが,歩行パターンにより膝OA患者を分類した研究はこれまでにない.本研究結果より,症状や内反変形の程度に依らず歩行時の膝屈伸運動が変化し,歩容の異なる患者間では歩行時の力学的負荷に影響する因子が異なっている可能性が示唆された.今後詳細な検討を行うことにより,膝OA患者の評価を行う際に有用な知見となると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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