抄録
【目的】生体にかかる力学的ストレスの低下は筋萎縮だけでなく骨萎縮をも惹起し、相対的に筋細胞や骨組織における形成が低下し、吸収が増加する。これらの防止を意図したこれまでの研究において、発育期における一過性のdenervationによる下肢のdisuseを起こした時、比較的高強度の電気刺激を経皮的に与えた場合では、刺激下の下肢骨格筋の筋萎縮軽減に効果的であることが示唆されている(Tomori et al, 2010)。しかしながら この時電気刺激で誘発された筋収縮張力によって生じる骨への力学的ストレスが、骨萎縮をどの程度防止、軽減できるのかについては明らかではない。本研究では、強度の異なる電気刺激で誘発される下肢骨格筋の収縮張力による力学的刺激が、denervationによる脛骨骨梁の量的低下を軽減する刺激となるか、刺激強度及び刺激実施期間に着目して検討した。【方法】7 週齢Wistar系雄性ラット(n=59)を実験に供した。denervation処置として、切開して露出した左坐骨神経に、-180℃の液体窒素にて冷却したステンレス製のロッド(幅3mm)を5 秒間押し当てて凍結損傷せしめ、後に縫合糸で切開部を縫合した。その後、処置側の下腿前面への経皮的電気刺激(30 分/日, 6 日/週)を実施した。刺激頻度は10Hzで、刺激強度は4, 8, 16mAの3 群(ES4, ES8, ES16)及び刺激なし群(DN)、age-matched control群(CONT)を設けた。電気刺激強度の差異による筋収縮張力の違いを確認するため、麻酔下にある実験ラットの前脛骨筋遠位端の腱を張力トランスデューサーに結合し、各刺激条件下で電気刺激を行い、その時の張力を計測した。術前(basal-control)及び術後の電気刺激開始1 週目及び3 週目に、麻酔下で前脛骨筋を採取し、続いて灌流固定後に脛骨を採取して、エチレンジアミン四酢酸で脱灰した。パラフィン包埋したサンプルブロックからミクロトームで5 μmの薄切切片を作成し、脱パラフィン後にヘマトキシリン-エオシン(吉木法)、アザン、トルイジンブルー及びシリウスレッド染色を施し、光学顕微鏡及び偏光顕微鏡にて観察した。また顕微鏡に設置したCCDカメラにて撮影した組織画像を画像処理ソフトにて骨組織形態計測に供した。【倫理的配慮】本研究は、動物実験の適正な実施に向けたガイドライン(日本学術会議, 2006)を遵守して、当大学動物実験委員会の倫理審査の承認を得て実施した。【結果】各刺激強度での筋収縮張力は刺激強度に依存して大きくなり、特に力積についてはES16 で顕著に高いレベルであった(P<0.05)。denervationにより脛骨骨梁面積(%BA)の経時的変化は術後1 週目から有意に減少し始めbasal-controlの57% レベルに至り、3 週目で最も低値(35%レベル)を示した(DN群)。3 週目における電気刺激側では対側(CL)と比較して%BAはいずれの刺激強度でも低値を示し、CLに対する比は平均約40%であり、刺激強度による差異は認められなかった。一方、denervation後の電気刺激1 週目においては、刺激強度16mA群(ES16)においては他の刺激強度群と比較して有意に%BAが高く(P<0.05)、CLと有意な差がなかった。骨梁構造解析の結果、%BAが比較的高かったES16 群では骨梁幅が維持されており、また類骨幅もCLと比較して1 週目では差がなく、3 週目では有意に低値であった(P<0.05)。【考察】本実験条件での経皮的電気刺激による筋収縮張力では、denervationによる脛骨骨梁の減少を完全に防止する効果は希薄ではないかと考えられた。しかしながら、刺激強度16mAで誘発された筋収縮張力では、denervation後初期(〜1 週目)の急激な骨量低下を遅らせる効果が示唆された。特に、類骨形成を低下させずに骨梁幅を維持する効果が認められた。6 ヶ月齢雌ラットの後脚懸垂モデルにおいて、disuseによる骨量低下及び骨梁構造の脆弱化防止に対して、経皮的電気刺激頻度20-100Hz(4 週間)で効果を認めた報告もあり(Lam and Qin, 2008)、 本研究での条件では、10Hzの刺激頻度においても、骨形成が維持されたdenervation初期の骨萎縮の軽減に有効ではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】筋骨格系の廃用性萎縮に対する力学的負荷による骨量軽減効果について、筋収縮によって誘発された骨への力学的因子の貢献並びに刺激条件を評価することは、運動療法等の効果発現機序の一端を理解する上で意義を有するものと思われる。