理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-01
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一般口述発表
地域高齢者における膝痛、腰痛有訴率と生活基本動作、手段的ADLの実態調査
小林 量作高野 義隆山本 智章森脇 健介伊野 善貴
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抄録
【はじめに、目的】 高齢者のいわゆる膝痛,腰痛などの慢性運動器痛は生活基本動作を阻害すると考えられている.また,変形性膝関節症,変形性腰椎症の潜在的患者数(X線有病率)は,両疾患とも3000万人余りと推計されている(Yoshimura et al.2006).そのため,慢性運動器痛の予防対策が喫緊の課題である.一方,膝痛,腰痛と生活基本動作及び手段的日常生活活動(IADL)との関係についての実態は明らかになっていない. 本研究の目的は,膝痛,腰痛による生活基本動作及びIADLへの影響を分析し,運動器痛予防の基礎データとすることである.【方法】 対象は平成23年度の「ながおかヘルシープラン21推進事業健脚度測定調査」に参加した566名であった.参加者は本調査への自発的参加者である.男性165名,女性401名,年齢は64歳から99歳,男性79.8歳±5.1歳,女性78.4歳±5.1歳であった.本調査はアンケート調査と「体力」測定からなる.アンケートは事前に対象者に配布し,「体力」測定日に持参した.アンケートの内容より個人属性,基本動作(12項目)と膝痛,腰痛の有無,痛みの程度,IADL(27項目)の遂行度(はい,いいえの二択)のデータを抽出した.統計的解析はカイ二乗検定を用いた.p<0.05を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本調査は疫学研究に関する倫理指針に準拠し,データの解析,発表については,対象者全員から書面による同意を得た.【結果】 1.性別,年齢による膝痛,腰痛の有無 膝痛有りが男性61 %,女性69%,腰痛有りが男性54 %,女性59%であり,いずれも有意差を示さなかった.膝痛,腰痛有り者の痛みの程度において,膝痛では女性の方が有意に強い痛みを訴えたが,腰痛では有意差を示さなかった.年齢を75歳未満と75歳以上で比較すると,膝痛有りは75歳未満58%,75歳以上69%で有意差を示した.腰痛有りは75歳未満57%,75歳以上58%であった.  2.基本動作における膝痛,腰痛の有訴率 膝痛の有訴率は,高値順に正座(男性50%,女性52%,以下同順),しゃがみ位になる(36%,52%,男女比較p<0.01),30分以上の長歩き(36%,42%),床かからの起立(36%,42%),階段昇降(34%,44%,p<0.05),休憩後の動き始め(32%,38%),あぐら座(21%,37%,p<0.001),椅子からの起立(16%,23%),起座(20%,18%),寝返り(14%,19%),洗面動作(7%,13%),就寝中の目覚め(6%,11%)であった. 腰痛の有訴率は,高値順に30分以上の長歩き(37%,42%),しゃがみ位になる(29%,37%),休憩後の動き始め(28%,30%),起座(26%,28%),床かからの起立(25%,28%),正座(24%,25%),階段昇降(20%,28%,p<0.05),寝返り(19%,23%),あぐら座(17%,26%,p<0.05),洗面動作(17%,24%,p<0.05),椅子からの起立(14%,20%),就寝中の目覚め(8%,8%)であった.  3.IADLにおける膝痛,腰痛の関係 膝痛,腰痛の有無がIADL低下に有意差を示した項目は,片足立ちで靴下をはく(膝痛での男女,腰痛での男女,以下同順),畳から起立する(女,なし),つまずいたりする(女,女),階段に手すり(女,男女),屋外歩行で杖使用(男女,男女),家事の重い作業(女,女),1km位の連続歩行(男,男女),家人以外との交流(なし,男),外出頻度(男,男女),地域行事に参加(女,男女),転倒不安がある(男女,女)であった.【考察】 本調査では,平均年齢約80歳の高齢者の7割が慢性の膝痛を訴え,6割が腰痛を訴えたことは,慢性運動器痛の予防の重要性を示唆している. 一方,基本動作ごとの有訴率では,膝痛の方が腰痛よりも高値で,膝痛と腰痛の発現する基本動作は異なっていた.特に男女差のある基本動作では,全ての動作で女性が上回り,膝痛,腰痛による基本動作への影響が女性により強いことが窺える.膝痛,腰痛の有訴率高値に共通した基本動作は,正座,しゃがみ姿勢,床からの起立であり,生活の洋式化が勧められる1つの背景と考えられる. また,膝痛,腰痛の有無とIADL遂行との関係では,多くの項目で影響を受けていた.その範囲は「片足立ちで靴下をはく」「転倒不安」~「外出頻度」「地域行事への参加」のようにADLから社会活動まで幅広い.このようなことは,膝痛,腰痛が高齢者の閉じこもりの原因になりうる可能性を示唆していると考える.【理学療法学研究としての意義】 膝痛,腰痛が基本動作,IADLに影響する実態を明らかにすることは,理学療法におけるADL・生活指導に寄与する基礎データとなる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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