理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-16
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一般口述発表
腹部引き込み運動が静的立位バランスに及ぼす持続効果について
纐纈 良納土 真幸石原 望
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抄録

【はじめに、目的】 体幹深部筋は外乱応力を素早く分散させ,バランスを維持する反応を起こすための固有受容器であり,体幹の安定化機構として姿勢制御の働きを担っているといわれている.小泉によると腹部引きこみ運動は体幹深部筋トレーニングの基礎であると述べており,腹部引きこみ運動は腹横筋や内腹斜筋の収縮を促す運動でインナーマッスルを活性化させ,意識下での収縮が難しい体幹深部筋に対し比較的容易に収縮を促すことができるとの報告もある.高齢者群を対象にした先行研究では体幹深部筋トレーニングである腹部引き込み運動が下肢運動と比較して,ある時間内における足圧中心の移動距離を表す総軌跡長や,その移動面積を表す外周面積を有意に減少させる即時効果があることを報告しているが,効果の持続性についての研究は見当たらない.そこで本研究の目的は腹部引き込み運動の効果の即時効果がどの程度持続するかを明らかにすることとした.【方法】 健常成人29名(男性12名,女性17名,年齢25.3±3.5歳,身長164.0±8.9cm,体重54.8±8.7kg)を対象とした.課題は体幹深部筋トレーニングとして腹部引き込み運動を行った群(以下,体幹群)と下肢運動として下肢伸展挙上運動を行った群(以下,下肢群)と安静臥位のみの群(以下,安静群)の3つとし,無作為に割り付けた.また,課題はそれぞれ3分間とし,体幹群は背臥位膝立位で,呼気時に合わせて腹部腹をへこませ,そのまま10秒間保持することを繰り返すように指示し実施した.下肢群は背臥位で無負荷下肢伸展挙上運動を左右両側交互にメトロノームに合わせて1秒間に1回行うように指示し実施した.安静群は背臥位で安静臥位をとってもらった.重心動揺測定は課題前,課題後,4時間後,10時間後の計4回実施した.重心動揺測定はZebris社製FDMを用いて計測した.重心動揺のパラメータは総軌跡長とし,閉眼にて60秒間閉脚立位肢位で計測した.統計解析は課題前の測定値と身体的特性として年齢,身長,体重において,課題3群間で統計的に有意差がないことを確認した後,課題の効果判定として総軌跡長の変化を指標とし,1要因に対応がある二元配置分散分析および多重比較法を用いて比較検討した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究概要,対象者の人権擁護等をヘルシンキ宣言の趣旨に沿い口頭にて説明した.また,参加について自由意志を尊重した上,参加することに同意を得た.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.【結果】 分散分析の結果,総軌跡長の変化は経過において有意差が認められたが,課題3群間では有意差は認められなかった.また,多重比較法において体幹群で課題前と課題後,課題前と4時間後で有意に減少した.下肢群,安静群についてはいずれの経過においても有意差が認められなかった.【考察】 被験者群が健常成人の場合でも,腹部引き込み運動後に総軌跡長が有意に減少した.この結果は,高齢者群を対象に行われた先行研究の結果に即したものとなった.また,持続効果としては4時間後までは課題前と有意差が認められたが,10時間後では有意差が認められなかった.以上より,腹部引きこみ運動の効果は即時効果のみならず少なくとも4時間後までは効果が持続する可能性が示唆された.体幹深部筋の機能を向上させることは,障害の予防や運動パフォーマンス向上のために重要と考えられるが体幹深部筋は選択的収縮が難しく,高齢者や運動麻痺を呈する者にとっては運動難易度が高いとされている.そのためこの腹部引き込み運動は運動難易度が低いことやどの肢位でも行えることから床上リハビリテーションでの治療の選択肢となるものと考える.また,健常者や競技者の中で体幹トレーニングが取り入れられている背景としては,健常者であっても,日常生活上で利き手,利き足の使い方や足を組むなどの個人の癖や生活習慣などにより本来使えるはずである体幹力を十分に発揮できていないためではないかと考えられ,高齢者や運動麻痺を呈する者でも選択的に収縮できるようになれば運動パフォーマンスの向上に繋がると考えている.今後の課題としては,今回は課題が1回のみであったが,より臨床につなげていくことを考えると課題を一定期間行った場合について検討することや,対象者の選定についてなどさらなる検討が必要であると考える.【理学療法学研究としての意義】 今回,体幹深部筋トレーニングである腹部引き込み運動による総軌跡長減少は即時効果だけでなく持続効果があることが確認することができた. 本研究結果が腹部引き込み運動を使用するうえでの一助になると考えられる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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