理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-16
会議情報

一般口述発表
ハンドヘルドダイナモメーターを用いた椅座位での体幹筋力測定方法の検討
遠藤 達矢小俣 純一岩渕 真澄白土 修伊藤 俊一
著者情報
キーワード: HHD, 筋力測定, 体幹
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】従来から,腰痛症の機能低下の一つとして体幹筋力の弱化が示されており,体幹筋力測定は重要な機能評価の一つである.臨床での筋力評価として徒手筋力検査(MMT)が広く普及しているが,MMTは順序尺度であり,客観性や再現性に問題があると報告されている.一方,ハンドヘルドメーター(HHD)は客観性,簡便性,コスト面において有用であると考えられるが,測定法・測定条件などを詳細に検討する必要がある.測定肢位においては,腹臥位での体幹伸展運動は腰部椎間板に与える負荷が大きく,腰痛の強い者や高齢者ではMMTの肢位での測定そのものが出来ないため座位での測定が推奨されるとの報告も散見される.したがって,体幹筋力の測定機器や測定法は統一見解には至っていない.本研究の目的は,HHDを用いた椅座位での体幹筋力測定時の測定方法の違いが筋力および筋活動に与える影響を検討し、最善の測定方法を確立することとした.【方法】対象は,運動器および神経系に障害がなく腰痛の既往のない健常成人男性20名とした.測定にはHHD(徒手筋力計モービィMT-100;酒井医療社製)を用いた.また,表面筋電計(Noraxon社製テレマイオG2)を用いて,体幹筋群ならびに下肢筋群の筋活動を最長筋,腸肋筋,腰部多裂筋,腹直筋,外腹斜筋,大殿筋,大腿直筋,大腿二頭筋から導出した.測定肢位は膝関節屈曲90 度・足関節底背屈0 度の座位姿勢として,骨盤前傾位,骨盤中間位,骨盤後傾位の3肢位にて比較した.体幹屈曲筋力は,徒手による固定(以下;徒手圧迫法),ベルトを用いた牽引による固定(以下;徒手牽引法)の2つの方法を用いて比較した.体幹伸展は,壁面を用いた固定(壁面圧迫法)と徒手圧迫法の2つの方法を用いて比較した. 統計的解析には,反復測定の一元配置分散分析を用い,その後、多重比較(Tukey法)を行った.検者内・間相関は級内相関係数(以下,ICC)を用いた.有意水準は全て5%未満にて統計処理した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り行った。対象者には,本研究の主旨と方法に関して十分な説明を行い,承諾を得た後,測定を行った.なお,本研究は埼玉県立大学倫理員委員会の承認を得た.【結果】HHDにて測定された筋力値は骨盤の傾斜の変化・抵抗部位の変化による違いがなかった.測定信頼性については,体幹屈曲では,徒手圧迫法ICC(1,1)=0.87,ICC(3,1)=0.83,徒手牽引法ICC(1,1)=0.85,ICC(3,1)=0.82であった.体幹伸展では壁面圧迫法ICC(1,1)=0.95,ICC(3,1)=0.96,徒手圧迫法ICC(1,1)=0.88,ICC(3,1)=0.63であった.また,筋電積分値(%MVC)は体幹屈曲では,骨盤前傾位と中間位に比べて骨盤後傾位で有意に高値を示した.体幹伸展では,骨盤後傾位に比べて中間位と前傾位で有意に高値を示した. 【考察】HHDによる筋力測定は,測定の信頼性と妥当性が必要であり,代償運動を少なくし,よりpeak値に近い測定が重要とされている.また,骨盤前後傾により体幹筋発揮力は変化し,腰椎の過度な前弯増強は腰痛発症危険因子の一つであるという報告もみられる.本研究の結果からも,骨盤傾斜の違いによって体幹筋群の活動は変化することがわかった.本来骨盤は,後傾位となると股関節伸筋と腰背筋が伸張され,股関節屈筋と腹筋は収縮する.しかし,座位姿勢で前方からの抵抗に抗することにより体幹の固定がより必要となり,外腹斜筋が有意に発揮されたと考える.よって,体幹の筋活動を評価するためには体幹屈曲では,骨盤を後傾位とし体幹上部にHHDを設置して測定する椅座位での徒手圧迫法が,検者間・検者内ともに高い信頼性があり腹筋群の筋活動をより反映する体幹屈曲筋力評価法であると考える.また,体幹伸展では骨盤を中間位にして測定する椅座位での壁面圧迫法が,検者間・検者内ともに高い信頼性があり背筋群の筋活動をより反映し,かつ腰椎の過度な前彎を惹起しない体幹伸展筋力評価法であると考える.【理学療法学研究としての意義】臨床においては,信頼性,安全性,簡便性が高い筋力評価方法が推奨される.さらに,体幹筋の筋活動を十分にとらえることが重要である.本研究より,椅座位での体幹筋力測定では,体幹屈曲は骨盤後傾位での徒手圧迫法での評価が推奨され,体幹伸展は骨盤中間位での壁面圧迫法での評価が推奨された.これは,腰痛や変形のため腹臥位をとれない患者に対してより効率の良い評価方法であり,短時間での測定が可能なため,臨床における理学療法効果の判定に有用な評価バッテリーであると考えられる.

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top